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インタビュー

KAT DELUNA


「小さい時からずっと歌いたいって思ってて、それだけに集中してきたわ。デビューはもちろん大事なステップだし、自分でめざしてきたものだけど、いまいる場所が最終的なゴールってわけじゃないわ」。

 これがデビューしたばかりの19歳の発言とはね。だけど〈破格の新人〉ともなれば、それぐらいの生意気な言葉がよく似合う。エレファント・マンを迎えた“Whine Up”で初夏にデビューを飾ったキャット・デルーナ。その歌を聴けば、彼女の持って生まれた才能のデカさもすぐにわかるんだけど、その豊かな音楽性は、彼女が成長するに従って身に付けていったものだ。NYはブロンクス出身でドミニカ育ちのキャットは、子供の頃から歌の才能を発揮し、USのソウルからメレンゲ、バチャータなどを日常的に聴きながら育ってきたという。

「フアン・ルイス・ゲーラにミリー・ケサーダ……伝統的な音楽は毎日、自然と耳に入ってきてたわ。シンガーとして憧れてきたのはセレーナとアレサ・フランクリン、マライア・キャリーかしら。ママが大ファンのビリー・ホリデイも好きだったわ」。

 両親が離婚し、帰国して母や姉妹とニュージャージーに居を構えた頃の一家は非常に貧しく、時には近所の人たちに食べ物を恵んでもらうほどだったそう。でも、キャットのハングリー精神はそこで育まれたのだ。歌を学ぶためにレコードを聴き漁り、14歳で芸術高校に進学したのも「楽譜の読み方とか、いろんな音楽に関するすべてを学びたかったから」だそうで、そこではオペラを専攻。同時に学外でコケットなる女子グループを結成してオーディションを受けまくる……って、想像するとちょっと清々しいくらいの貪欲ぶりだけど、それほど彼女の成功をめざす意識は強かったってことだ。しかし、そのコケットでオーディションを受けると、たいていソロ契約を勧められたそうで、4年の活動の末にグループを解散した彼女はすぐにエピックとメジャー契約を果たしている。レーベル側としてはジェニファー・ロペスやシャキーラ、あるいはグロリア・エステファンやセレーナに続く新しいラティーナ・スターを期待しているに違いないが、キャット本人はあまり気にしていない様子だ。

「プレッシャーはないし、彼女たちのことは凄く尊敬してるから、そんなふうに期待されたら嬉しいわね。でも、私は半分US育ちだし、世代も音楽も違うでしょ? 彼女たちぐらい成功するつもりだけど、やっぱり人それぞれやり方も違うわ」。

 またも大物発言だけど……その第一歩として登場したのがファースト・アルバム『9 Lives』だ。ここでは中堅のレッドワンが全曲を手掛けているのだが、よくある大物プロデューサーやゲストを招かなかった理由も、キャットに言わせるとこうなる。

「最初に会った時からレッドワンとは相性が良くて、他の人と仕事する必要を感じなくなったの。それに、もう売れてる人ってプロデューサーにしろアーティストにしろ、自己主張の強い人が多いのよ。自分のやり方を押し付けてきて、こっちの意見を聞いてくれなかったりするのよね。自分の作品なのに自分の色が出せなくなっちゃうなんて、そういうのはお断り!」。

 はい。で、アルバムの中身もその自信を裏付ける仕上がりとなっている。レゲトンを意識した“Run The Show”やバチャータも採り入れたセレーナばりのポップ・チューン“Am I Dreaming”、ダンスホール風味を加えた“In The End”、オペラの素養も活きるビッグ・バラードなど、全方位的に広がっていくアレンジと戯れるかのようにキャットの歌声は自由に舞い踊り、その恐るべきポテンシャルの高さに圧倒されてしまうのだ。これはもう聴いてもらうしかないというか、歌の上手さの意味がちょっと違うというか。しかも詞も曲もだいたい自作だというから恐れ入りました。ただ、恋愛などを綴ったリリックの内容については、ほとんど自分の経験ではないようだ。

「身近な人の体験を元にしてるって言い方が正しいかも。正直、恋愛経験はほとんどないの。周りの子たちはどんどん彼氏ができるのに、私はずっと音楽に没頭してたから、そんな時間なんてなかったの……」。

 おやおや。まだ若いんで、それはがんばってくださいね。

PROFILE

キャット・デルーナ
87年生まれ、NYはブロンクス出身のシンガー。家族で移住したドミニカで育ち、幼い頃から歌の才能を発揮する。9歳の時に帰国してニュージャージーに居を構え、アレサ・フランクリンやセレーナのレコードを聴きながら歌唱法やソングライティングを独学していく。14歳で進学した地元の芸術学校ではオペラを専攻し、並行してコケットというガールズ・グループを結成。オーディションやイヴェント出演などを続けるなかでグループを解散し、2006年にエピックとソロ契約を果たす。今年5月にエレファント・マンをフィーチャーした“Whine Up”でデビューし、全米ダンス・チャートで1位を獲得。このたびファースト・アルバム『9 Lives』(Epic/ソニー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年10月04日 18:00

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/轟 ひろみ