インタビュー

System 7

永遠の生命と無常を描いた「火の鳥」が、無限に輪廻を繰り返すプログレッシヴなダンス・ミュージックと出会った。翼を広げて、いま物語が羽ばたきはじめる……


 60~70年代にプログレッシヴ・ロックと呼ばれた実験的な音楽が、現在のクラブ・ミュージックに与えた影響は近年ますます見えやすくなってきている。往年のプログレ勢のなかにはいまなお現役の者ももちろんいるが、その当事者たちがそのままエレクトロニックなダンス・ミュージックに傾倒していった例はそう多くない。そんななか、カーンやゴングで活躍していたスティーヴ・ヒレッジと彼の公私に渡るパートナーであるミケット・ジローディが組んだシステム7は、野外レイヴをはじめとするライヴ活動を積極的に行い、現行シーンと密接な関係を築いてきた稀有な存在だろう。

「80年代のアシッド・ハウス・ムーヴメントに物凄く影響を受けたんだ。同じ時期に影響を受け合った仲間たちとの交流のなか、90年にアレックス・パターソンやユースとコラボする形でシステム7が生まれることになったんだよ」(スティーヴ・ヒレッジ:以下同)。

 彼らがこれまでにリリースしてきた数々のアルバムは、アンダーグラウンドながらここ日本でも愛され、90年代後半からは幾度となく来日も経験。空間をフワフワと舞うような独特の響きを放つスティーヴのギターとサイケデリックなサウンドは聴き手を何度も恍惚の世界へと誘ってきた(ホントに気持ち良い!)。ただ、今回のニュー・アルバム『Phoenix』には、これまで彼らの音楽を聴いたことがない人も興味を抱くだろう。同作は故・手塚治虫の漫画「火の鳥」をモチーフにしているのだ。

「るみ子(手塚の長女)から、原作をプレゼントされて、〈火の鳥〉をモチーフに曲を書いてもらえないか、とアプローチされたことがきっかけなんだ。それまでは〈火の鳥〉のことはまったく知らなかったからね。しかし、いざ読んでみたら、あっという間にその世界観に圧倒されて、残りの巻もネットで探したりして自力で揃えたんだ。今回のプロジェクトは僕らが〈火の鳥〉をモチーフにしたというより、〈火の鳥〉が僕らを選んで使命を与えてくれたのかもしれないね」。

 こうして始まった一大構想。制作期間は6か月程度だったらしいが、構想から実際のスタジオ入りまでには、何と3年もの歳月をかけたのだとか!

「何しろ〈火の鳥〉の世界観を理解するために、全編を10回以上も読み込んだからね。そこから得たイメージを音にする作業過程でも、原作の気に入った場面をデジカメに収めて、そのエピソードにもっとフォーカスしたサウンドを模索したりしたよ」。

 そんな本気のこだわりは、今回のプロジェクトに関わった他のアーティストたち――ゴングのデヴィッド・アレン、イート・スタティック、クラムボンのmitoら――にも徹底されたようで、「このアーティストにはこのストーリーが合うだろうという曲を提案して作っていったんだ。もちろん担当するエピソードをそれぞれに読ませてね」とのこと。原作のイメージや世界観を壊さぬよう、あらゆる面から丁寧に仕上げられた『Phoenix』では、2人がサイケデリック・カルチャーで培ったフィーリングがトランスやプログレッシヴ・ハウス、テクノ、ロック、インド音楽などを包み込んでいる。原作のストーリーさながらの壮大なスケールで展開していく内容を聴けば、この顔合わせが運命的なものだったと確信できるはずだ。運命的といえば、〈日本の好きな場所は?〉という問いへの答えも……。

「京都の鞍馬山が気に入っているよ。8年前に初めて訪れて以来、機会があれば来日のたびに立ち寄るんだ。今回〈火の鳥〉を読むまでは知らなかったんだけど、作品中にも鞍馬山が関係するエピソードが描かれていて、読んだ時には鳥肌が立ったよ! 偶然なのか必然なのかはわからないけれど、そういう因果も含めて特別な場所だね」。

 あまりにもできすぎた話で、鳥肌どころじゃないんですけど……。

▼関連盤を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年10月25日 00:00

更新: 2007年10月25日 17:42

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/青木 正之