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インタビュー

青柳 拓次

初の本人名義、そして初の日本語詞への挑戦。素朴で美しく、優しい言葉と音を持つファースト・アルバムに込められた彼の想いとは?


 「自分としては、LITTLE CREATURESでもそうなんですけど、ずっとポップなものを作っているつもりだったんですよ(笑)。でも、自分では〈ポップなものが出来たなあ〉って思っていても〈地味〉って言われたりね。ずっとそれの繰り返しです(笑)」。

 ポップという概念は人それぞれではあるが、この青柳拓次に関して言えば、個人の内面に近づけば近づくほどポップになるのではないか。〈青柳拓次〉個人名義としては意外にも初めてのソロ作品となる『たであい』を聴くと、ふとそう感じたりもする。いや、あくまで一般的な解釈だと、笙やトンコリ、二胡、馬頭琴などの楽器を効果的に使用して作られたこのアルバム、ポップとかキャッチーといったニュアンスとは対極のところにあるのかもしれない。だが、彼自身の日常生活の中から生まれたメロディーに、同じく自然発生的に綴られた日本語の歌詞を与えたここでの12曲は、日本人であれば誰でもスッと耳に馴染む人懐っこさを孕んでいる。

「インストはKAMA AINAでもやってきていたので、本名名義の作品を作るなら言葉中心、それも日本語の作品かなとは思っていました。RAMをやった時、今回のアルバムにも入ってますけど、“クロの車”って曲を歌って。その時、いろんな人が反応してくれたんです。〈青柳くんの日本語はおもしろいね〉とか。あとは10年くらい〈BOOKWORM〉(彼が主催の一人となった言葉や朗読のイヴェント)をやったことも今に繋がりましたね。短編小説みたいなアルバムを作りたいっていう想いもずっとありましたから」。

 日本の民謡や童謡、唱歌などからインスパイアされたようなわかりやすい、それでいて気品のある言葉が、口をついて出てきた鼻歌のようにリラックスした旋律の上で緩くたゆたっている。その様子はまるで旋律と言葉とが夕刻の縁側で何気なく会話しているようだ。

「3、4年ほど前、ちょうど日本の民謡とかを聴いていた時期だったんですけど、KAMA AINAのライヴで夏の京都に行った時、空き時間に近所を散歩していたんです。どこかから音が聞こえてくるので近寄ってみたら、灯籠が並んでいるような町家の景色の中で、浴衣を着たオバさんたちがピアノとかを弾きながら“みかんの花の咲く丘”とか“まちぼうけ”とか、そういう曲を歌っていたんですよ。その風景が自分にはすごく美しくて。その時からですね、日本語の世界により深く入っていけるようになったのは」。

 仙波清彦、ASA-CHANG、ビューティフルハミングバードの小池光子、そしてLITTLE CREATURESの盟友である栗原務らが参加してはいるものの、同じくCREATURESの鈴木正人がスコアを起こしてまとめたアレンジは実に計算されたもの。一見、すべての音が気ままに鳴らされたような演奏だが、藍染めなどに使用される植物〈蓼藍(たであい)〉を、柔らかな印象を喚起させるひらがな表記でタイトルに冠した本作は、先頃プライヴェートでパパになった青柳自身の、常に冷静だけど温かで穏やかな人柄も反映させている。 

「〈たであい〉って言葉を知ったのは去年くらいのことなんですけど、〈藍色〉が自分にとってキーワードだってずっと思っていたので、〈これだ!〉っていう直感はありました。そういう意味でもいいタイミングだったと思います。僕は東京でも歴史のある町じゃなくて新興住宅街育ち。いろんな国や場所に行くとその土地の歌というのが必ずあるのに、故郷の歌みたいなものを知らなくて、寂しい気持ちもどこかで感じていました。もしかすると、そういう自分の〈歌〉を作りたかったのかもしれませんね」。

▼青柳拓次の近作を紹介。

▼『たであい』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年11月22日 23:00

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/岡村 詩野