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インタビュー

NICOLE SCHERZINGER


「ソロ・アルバムの準備? そうね、3歳の頃から始めていたわ(笑)」。

 冗談とも本気ともつかない台詞の端々に滲む、みずからの〈芸能力〉に対する絶対的な自負。一見すれば何の変哲もないこの軽口も、ハリウッドでショウビズの何たるかを徹底的に叩き込まれたプロフェッショナル集団のフロントを張る女性から発せられたものであることを明かせば、多少は受け止め方も変わってくるんじゃないだろうか?――彼女の名は、ニコール・シャージンガー。デビュー・アルバム『PCD』が全世界で700万枚ものセールスを記録した現代アメリカン・エンターテイメントのシンボル、プッシーキャット・ドールズ(以下PCD)のリード・シンガーだ。

「PCDでは本当に多くのことを学んだわ。成功するためにはどれだけの労力とハートを注ぎ込む必要があるかよくわかったし、細かいところまで気を配って常に誠実でいないとダメ。人ってバカじゃないもの、いい加減なことをやったら簡単に見抜かれちゃうって私は思ってるわ。そして、PCDの成功はソロ・アルバムへの道を拓いて、その準備をする手助けにもなった。これまでの私の人生すべてが、この瞬間のための準備だったのよ。いまがその時だって実感してる。用意はできてるわ」。

『PCD』の完成直後から制作に取り掛かり、グループの活動や数々の客演(そのなかには、P・ディディの“Come To Me”やリアーナ“Winning Women”、50セント“Fire”などが含まれる)の間隙を縫って作り上げたファースト・ソロ・アルバム『Her Name Is Nicole』。実に100曲を超えるレコーディングから選りすぐられたというヴァラエティーに富んだトラックは、多様な文化的バックグラウンドを持つニコールのアイデンティティーそのものと言っていい。

「ハワイで生まれ育った女の子がケンタッキーに住むようになって、しかも彼女にはロシア人とフィリピーノの血が流れてる。私自身がメルティング・ポットだから、影響を受けた音楽もメルティング・ポットなのよ。曲を書いている時もそれが表に出るように気を配ったわ。私のような容姿と生い立ちのアメリカン・ガールはそうそういないでしょ? そんな私はこの地球全体を反映できることにもなる。音楽的には、私はどこにでも行きたい場所に行けるの」。

 そんなニコールの発言は、アルバムに名を連ねるプロデューサーやゲスト・アーティストを羅列していくことでグッと説得力を増すと思う。そのラインナップはウィル・アイ・アムやティンバランド、ポロウ・ダ・ドン、ショーン・ギャレットといった『PCD』参加組から、ニーヨ、カニエ・ウェスト、ファレル、エイコン、T.I.、さらにはギャリー・ライトボディ(スノウ・パトロール)やティム・ライス・オクスリー(キーン)、そしてスティングにまで及ぶ。

「私の音楽はサプライズだらけでしょ(笑)。マジカルな作品が完成したと思うわ。このアルバムはお説教じみたものにしたくなかったから、何か特定のメッセージを考えたりはしなかった。わかっていたのは、私がただ音楽を愛しているということ。そして私には両手いっぱいの物語と、音楽として世に出す必要のある両手いっぱいのエモーションがあるということ。それだけだったわ」。

 万華鏡のような色彩と多面性を備えた『Her Name Is Nicole』からは、PCDと共に現行ポップ・ミュージックのムードを決定付けたブラック・アイド・ピーズの紅一点=ファーギーの『The Dutchess』との共通点を多く見い出すこともできるが、そのファーギーがそうであるように、ニコールもまたスターになるべくして生まれてきた女の子という印象が強い。妖艶なルックスを際立たせる知的な物腰と強靭な意志の向こうに、未来のポップ・アイコンの姿を見るのは自分だけではないだろう。

「幼い頃からこんな仕事をやりたいって夢があった。その夢を持ち続けて、そのために努力して、決して諦めなかったわ。そしていま、私はファースト・アルバム『Her Name Is Nicole』をリリースするの。小さな〈信じる心〉がここにいる女性を作り上げたのよ」。

PROFILE

ニコール・シャージンガー
78年生まれ、ハワイ出身/ケンタッキー育ちのシンガー。高校でダンスや演技を学び、大学時代にシンガーとしての活動を開始する。TVのオーディション番組「Pop Star」から生まれたガール・グループのエデンズ・クラッシュに参加し、2001年に“Get Over You”でデビュー。翌年の解散を経て、2003年よりプッシーキャット・ドールズに加入。グループで成功を収める傍ら、P・ディディやティンバランド、ダディ・ヤンキー、50セントらの楽曲に客演してソロ・アクトとしても注目を集めていく。今年に入ってシングル“Whatever U Like”でソロ・デビューを果たし、11月7日にファースト・アルバム『Her Name Is Nicole』(Interscope/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年11月22日 23:00

ソース: 『bounce』 292号(2007/10/25)

文/高橋 芳朗