インタビュー

Reel People


  コンテンポラリーなダンス・サウンドを通過した、極上のUKソウル・アルバム――リール・ピープルのニュー・アルバム『Seven Ways To Wonder』は、この先ずっとそんなふうに語られるだろう快作だ。リール・ピープルとは、ソウルフルなハウスをフォローする自主レーベル=パパを切り盛りするDJのオリ・ラザルスとマルチ・キーボーディストのマイク・パットを核とするユニットである。作品では2人が舵取り役になり、さまざまなシンガーや演奏者が加わる形だ。そのファミリー・グループ的な佇まいは、今回の新作に参加したイマーニやトニー・モムレルらが歌うインコグニートにも近い感触を持っている。そんなグループを牽引するオリに話を訊いた。

 「3年に渡って前作『Second Guess』のツアーを回った後、僕たちが進んできた方向性を反映したアルバムを作りたいと思うようになったんだ。今回の『Seven Ways To Wonder』は、僕たちのルーツであるソウル・ミュージックへといっそう回帰したものになったと思うよ」。

 今回の制作はオリとマイクによる約1か月間の曲作りを経て、ヴァネッサ・フリーマンやディアナ・フェロン、NYの新人だというダリアンといったシンガーたちとのコラボレートが行われていった。ストリングス・オーケストラが加わった最終型に至るまでは約8か月の道のりだったという。

 「プロダクションの過程でそれぞれに違った味わいを持つ人たちといっしょにやったんだ。ドムは素晴らしいドラム・プログラマーだよね。イアン・トーマス(ドラムス)、レオン・ステニング(ギター)、ジュリアン・クランプトン(ベース)、それにリ・セヴィル(パーカッション)たちと仕事ができたのも恵まれていたよ。世界的にもレヴェルの高い、最高のミュージシャンたちが貢献してくれたんだ」。

 また、UKソウルにはなくてはならない〈声〉=オマーの参加も大きなトピックだろう。

 「彼は伝説的なアーティストだし、フィーチャーできたのは光栄だね。各シンガーを起用した理由は、正しい人を正しい曲に迎えるっていう、ごくシンプルなことなんだ。誰にするか考えるのに時間はかけるけど、幸運にも正しい選択をしていると思う。いままでのところはね(笑)」。

 例えばヴァネッサ・フリーマンは最初期からリール・ピープルに関わっているシンガーだが、彼女が今作で滲ませる〈適材適所感〉は、西ロンドン界隈から送り出されるソウルフルな音楽を追いかけてきたファンには実に感慨深いもののはず。それだけ今回のリール・ピープルは成熟した音を聴かせている。

 「簡単に仕上がった曲も、そうでなかった曲もあるよ。最後のほうの段階で何か変更を加えたこともあるけど、最終的にそれが正しい選択だったと思うための準備をしなきゃいけないんだ。“Outta Love”がいい例かもしれない。オマーの歌も、曲そのものも凄く気に入ってたけど、アルバムが完成する2日くらい前にプロダクションやスタイルを全部変えちゃったんだ。大きな決断だったけど、正しかったと思ってるよ。常に音楽を聴いて、変わるということにオープンにならなきゃね」。

 R&B~ソウル、ジャズ、そこにハウスやラテンが入り交じり、ほんのりとダブやエレクトロニカの要素も溶け込むが、オリはその融合感について特に意識はしていないという。多彩な音が折り重なっているものの、あくまでもナチュラルな空気感に包み込まれた美しい音の綾がある。そこはやはり彼らならではの旨味だ。

 「僕たちはどんな音楽でも聴くから、いろんなサウンドを試すことにはオープンなんだ。常にソウルは忘れないけどね。コンテンポラリーなソウル・ミュージック? そうだね、僕らにとっては、それはただ〈みんなのための音楽〉ってことかな。僕らの音楽はだいたい15歳から60歳くらいの人にまで楽しんでもらえると思うし、それで僕たちもハッピーになる。つまりポジティヴ・ミュージックってことなんだよ!」。

PROFILE

リール・ピープル
オリ・ラザルスとマイク・パットによるロンドンのクロスオーヴァー・ユニット。2001年にトム・デヴィッドソンも含む3人組で結成され、オリの運営するレーベル=パパからシングル“Spiritual”でデビュー。コンスタントにシングルを重ね、2003年にファースト・アルバム『Second Guess』をリリースする。2005年にシングル“The Rain”が大ヒットを記録し、ディフェクテッドから新装盤『Second Guess(Live Sessions)』を発表。並行してクラウド9やアース・ウィンド&ファイア、STUDIO APARTMENT、SOULHEADらのリミックスを手掛けるなど、外部制作でも手腕を発揮していく。12月5日にニュー・アルバム『Seven Ways To Wonder』(Papa/コロムビア)をリリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年12月13日 23:00

ソース: 『bounce』 293号(2007/11/25)

文/池谷 修一