インタビュー

YMCK

日本のチップ・チューン界を背負う彼らが新作を発表! 8ビット・サウンドで彩るポップスは、まだまだ尽きないようで……


  オールド・スクールなTVゲームならではの、ピコピコとした電子音だけで作られた音楽――〈8ビット・サウンド〉とか〈チップ・チューン〉と呼ばれるこのジャンルにおいて、いまもっとも才気溢れる活躍を見せる3人組がYMCKだ。彼らはジャズのスウィング・ビートをゲーム音に変換し、栗原みどりによるキュートなヴォーカルを乗せた洒脱なサウンドで、ゲーム・ファンのみならずさまざまなリスナーの心を掴んでいる。ドット絵によるアートワークやファミコン的な映像のプロモ・クリップなど、グラフィカルなゲーム的世界観と相まって、世界中でファンを獲得しているのだ。

 「そもそもはジャズの要素があるテクノがやりたくて、そこからチップ・チューンに辿り着いたんです。ファミコンの音だけで作ることにはこだわっていて、音数などいろんな制限を外れないようにしながら、どううまくアレンジして聴かせるかが勝負ですね」(除村武志)。

 「映像も、昔ながらの技法をいまのテクノロジーで作っていて、かなり面倒くさいです(笑)。でもそこがおもしろいところでもあって」(中村智之)。

 そう語るように、これまでは8ビットというローテクな枠組みのなかで〈いかにポップスを作るか/いかにファミコンっぽい音を追求するか〉をリスナーといっしょにおもしろがってきた彼ら。だが、このたびリリースされた3枚目のニュー・アルバム『ファミリージェネシス』では、そうした研究の成果をしっかり血肉にしたうえで、次のステップへと進んだ姿が見て取れる。トレードマークとも言えるジャジーで賑やかなアレンジだけでなく、実に多彩な楽曲のヴァリエーションを提示。8ビット・サウンドを鮮やかに操り、普遍的なポップスとしても成立する作品を作り上げている。

 「今回は前提としてメロディーのきれいなものが作りたかったんです。チップ・チューンは、その音色の世界さえ守れば、実はいろんな音楽をカヴァーできる。以前はジャズ的な音をかなり意識していたんですけど、いまは他にどんなアレンジができるのかに興味が広がってます」(除村)。

 海外でのイヴェント参加も多いことから、各国のチップ・チューン・アーティストとの交流も多い様子。なかでも気になるのは、彼ら同様にさまざまな音楽へ目を向けているアーティストだという。

 「メロコア的なメロディーを持った曲を作っているアメリカのビット・シフターや、ヒップホップやジャズも作ってしまうヴァートとか、いろんな音楽があるなかで、あえてチップ・チューンをやっているアーティストはおもしろいし、そういう考え方は僕らと共通していると思います」(除村)。

 YMCKが作り上げるのは、あくまでイメージや憧れとしての8ビット・ワールド。だからこそ彼らの音楽には、ファミコン世代に限らず受け入れられる風通しの良さがあるのかもしれない。

 「(ファミコン世代ではない)中高生のファンの子たちからも結構メールをもらうんですよ。それが〈ファミコン〉という概念だけに収まらず、幅広く受け入れられている何よりの証拠だと思うんですよね」(除村)。

 「でも中学生のファンには〈YMCKのどこが好きなの?〉ってじっくり訊いてみたいですね(笑)」(栗原みどり)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年02月14日 16:00

更新: 2008年02月14日 17:25

ソース: 『bounce』 295号(2008/1/25)

文/澤田 大輔

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