インタビュー

THE HOOSIERS


  5年ほど前といまのUKロック・シーンを比べてみて、変わったなあというポジティヴな後味と共に感じることがひとつある。それはロックにおける〈ポップ〉の扱われ方だ。2000年代の頭までは、シーンやミュージシャンのなかに〈ポップなものはすべて仮想敵〉みたいな傾向が確実にあった。しかし、いまはロックの切れ味やダイナミズムをもはや当然のことと見なすからこそ、アークティック・モンキーズやクラクソンズのように聴く人誰もが興味を持ち、惹かれずにはいられない〈ポップの魔法〉を手にすることに意識的なバンドが多い。私は密かにこれを〈フランツ・フェルディナンド以降の世代〉と名付けている。つまり自分たちの奏でる新しいロックが、〈ポップなもの〉として広く認識されることの重要性を理解している世代。彼らに共通しているのは、良い曲/おもしろい曲を作っているという自信がそこにあることだ。

 価値観で区切られるそういうトライブに新しく顔を出したのが、ここで紹介するフージアーズ。何しろ彼らを取り巻く外的要素は、ほぼすべてがジョークと笑いと楽しさで満ちている。人を喰ったようなアーティスト写真の表情や構図、コスプレを喜んでやるプロモ・クリップ、頻繁に登場する子供が書いたようなイラストのキャラクター、そしてバウンシーでポップなキラー・チューンで畳み掛ける各シングル曲など……。とはいえ、そこに惑わされすぎることなかれ。

 「僕ら、最初はオルタナティヴっぽくシンセの音などを効かせたインディー・ディスコを演奏してたんだよね。当時はとにかくレーベルと契約を結びたかった。そろそろ20代になりそうだったし、バンドとして儲かったことがなかったし、ブレイクもしたかった。それにシンプルで良質なポップソングを作って、シーン全体を良くしたかったんだよ」。

 デビュー前のことを、フロントマンのアーヴィン・スパークス(以下同)はそう振り返る。これ、まるでアレックス・カプラノス(フランツ・フェルディナンド)の言葉みたいだと思いません? さておきこのバンドの場合、人の目を惹きたいというよりも、むしろ昔のキッチュなアニメや映画を愛するメンバーの趣味を、奥底に持つニール・ヤングやスフィアン・スティーヴンス、そしてフレーミング・リップスやレディオヘッドなどへの愛情とイコールで繋がる音作りに結び付けただけ。つまり、このたび日本盤化される彼らのファースト・アルバム『The Trick To Life』は、聴くほどに文化面でエクレクティック。エレクトロもポスト・ロックもインディー・ギター・ロックも呑み込んだサウンドで〈現代〉を象徴しつつ、ともすればマニア向けと思われがちな音楽的嗜好と、「グーニーズ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を偏愛する男子ならではの無邪気さがシンプルに交わることで、ポップな新しさを生み出しているのだ。

 「例えばフレーミング・リップスは、バンドが音楽の他にもいろんなものを内包していることを証明したよね。多くのバンドがカッコイイことだけをめざしているけど、想像力を使ってもっといろんなことができると思う。僕らもたくさんのアイデアがあるよ。そのうちもっと大きいステージでライヴできるようになったら、幽霊が出そうな森のセットを組んだり、パペットを使ったり、マジシャンの友達にマジックをやってもらったりしたいな。とにかく巨大なショウにしたいんだ」。

 〈ロック〉というものをとても幅広く捉えているフージアーズ。リアルを志向しがちなバンドとはまた異なる、彼らの〈想像力〉に巻き込まれる体験は新鮮で楽しい。

PROFILE

フージアーズ
アーヴィン・スパークス(ヴォーカル/ギター)、マーティン・スカレンダール(ベース)、アルフォンソ・シャーランド(ドラムス)から成る3人組。幼馴染み同士のアーヴィンとアルフォンソが、高校時代にレディングで前身バンドを結成。卒業後に2人揃ってUSの大学に進学するも中退し、拠点をロンドンに移す。ほどなくしてマーティンをメンバーに加え、現在の編成となる。2007年6月にデビュー・シングル“Worried About Ray”をリリース。その後、いくつかのシングル・ヒットを経て、10月にファースト・アルバム『The Trick To Life』(RCA/ソニー)を発表。同作が全英チャート1位を記録するなど大きな話題を呼ぶなか、4月9日にその日本盤がリリースされた。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年04月17日 17:00

更新: 2008年04月17日 17:12

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/妹沢 奈美