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インタビュー

RYAN SHAW


  何と古風な男なのだろう。初めて『This Is Ryan Shaw』を耳にした時、そのあまりのオールド・スクールぶりに仰け反ってしまった。まるで40年前のソウル・ミュージックのレコードではないか、と。しかも冒頭から、ソウル・ファンでさえ知る人もそう多くないであろうシャーピーズ“Do The 45”(65年)のカヴァー。これをファンキーな原曲のままに再現し、熱いテナーでエネルギッシュに歌い上げる。さらに聴き進めていくと、ウィルソン・ピケット(ファルコンズ)の“I Found A Love”やボビー・ウォマック(ヴァレンティノス)の“Lookin' For A Love”、ジャッキー・ウィルソンの“I'll Be Satisfied”など、60'sソウルを中心としたカヴァーが続々登場。しかも、それを歌うのが80年生まれの男というのだから余計に驚かされる。

 「アルバムを作るために数千もの曲を聴いて、そのなかから聴いた瞬間に惹き付けられた曲を選んだんだ。ほとんどの曲が、まるで自分が長年歌ってきたかのように感じられたよ。それはきっと、オリジナルの曲を歌ったアーティストの多くが僕と同じように教会出身だからだと思うんだ」。

 実際にライアンは、「日曜日は一日教会で過ごし、平日もクワイアの練習」という少年時代を送っていたそうだ。そのため10代後半までゴスペルしか聴いたことがなく、世俗の音楽に目覚めたのはいまから10年ほど前。劇作家のタイラー・ペリーによるゴスペル・ミュージカルに参加した後、NYの〈モータウン・カフェ〉で歌う仕事を得てからだという。

 「そこではテンプテーションズやフォー・トップスのメンバーを演じていたよ。あと、デュエットでマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの曲も歌った。必要に迫られて世俗の音楽を歌いはじめたって感じなんだ」。

 その後、船上やクラブなどで歌う仕事をこなすうちに世俗音楽のレパートリーを増やし、2004年にファビュラス・ソウル・シェイカーズというドゥワップ~アーリー60'sソウルを歌うグループに加入。NYに住む若者なら、もっとトレンディーなR&Bやヒップホップに目がいきそうなところだが……ライアンは違った。

 「ボーン・サグズン・ハーモニーはよく口ずさんでいたし、ローリン・ヒルやアウトキャストなんかも大好きだよ。でも、ラップは言葉が速くて意味がわからない。ディアンジェロとかも好きだけど、やっぱり言葉(歌詞の内容)には違和感があるかな。サウンドそのものは美しいけどスラングを使ってるし……ゴスペル育ちの僕にとってはね。それに僕はもっとクラシックな音楽が好きだしさ」。

 かくして、このたび日本盤化されたデビュー作『This Is Ryan Shaw』は先述したような〈どソウル〉盤となった。ファビュラス・ソウル・シェイカーズのギタリストであるジョニー・ゲイルが、ポップス畑のヴェテランであるジミー・ブラロウワーにライアンを紹介し、その3人でセッションしているうちにリリースまで話が進んだという。アルバムには60'sソウル・ライクなオリジナル曲も数曲収録されている。

 「今回はまずカヴァーをやって、その後にオリジナルを録ったんだ。だから、カヴァーを歌っている時の〈モード〉のなかに入ってオリジナルが出来たって感じだね」。

 うち“Over & Done”は、US南東部の伝統であるビーチ・ミュージックのシーンで昨年の最優秀曲に選ばれたとか。また、先日のグラミー賞では、ボビー・テイラー&ザ・ヴァンクーヴァーズ曲のカヴァー“I Am Your Man”が〈最優秀トラディショナルR&Bヴォーカル/パフォーマンス〉部門にノミネート。ジワジワと注目を集めているライアンだが、早くも次の作品に取り掛かっているようで、「今度は70年代のソウルにもトライしたい」とも。ならば女性とのデュエットも聴いてみたいと言うと、「ジョス・ストーンとはどうかな?」ときた。何と直球な。いや、この企みのなさ、清々しさこそがライアンだ。純真無垢、全身全霊でソウルを歌う。これ以上何を求めようか。

PROFILE

ライアン・ショウ
80年生まれ、ジョージア州ディケーター出身のソウル・シンガー。敬虔なクリスチャンの家庭に生まれ育ち、5歳の頃から教会で歌いはじめる。その後、兄弟と共にショウ・ブラザーズなるゴスペル・クァルテットを結成して活動。大学卒業後の98年、ゴスペル・ミュージカルへの出演をきっかけにNYへ移住する。2004年にドゥワップ~クラシック・ソウルを歌うファビュラス・ソウル・シェイカーズに加入。ジョス・ストーンのオープニング・アクトやゴードン・チェンバースのバック・ヴォーカルといった活動と並行してレコーディングを進め、2007年にファースト・アルバム『This Is Ryan Shaw』(Razor & Tie/ビクター)を発表する。このたびその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年05月01日 16:00

更新: 2008年05月01日 17:33

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/林 剛