インタビュー

THE LAST SHADOW PUPPETS


  最近、活きの良い若手ロック・アクトほどロックやパンク以外からの影響源を引っ張り出しているケースが多い気がする――そんなふうに考えていた勘の鋭い皆さん、ズバリ当たりです。例えば、ヴァンパイア・ウィークエンドは〈ロックイズムをすべて排除することだけを結成の際に心に決めた〉と語っているし、昨年リリースされたベイルートの2作目『The Flying Club Cup』は単にアメリカから見たヨーロッパ文化への憧憬をもはや超えて、〈前世は19世紀のフランス人でした〉的な血肉化が実現しているがゆえに名盤と言える。そして、ラスト・シャドウ・パペッツのファースト・アルバム『The Age Of The Understatement』こそ、まさにその系譜の決定打。〈アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーが新バンドを作りました〉みたいな話題性に左右されていたら、肝心な部分を聴き逃すことになりますよ! というのも、本作はアレックスが大親友のマイルズ・ケイン(ラスカルズ)と〈スコット・ウォーカーの“Jackie”みたいな曲を作りたいね〉と電話で話したのが、誕生のきっかけ。そもそもマイルズがかつて在籍していたリトル・フレイムスのナンバーをアークティックがカヴァーするなど、2人はデビュー当時から気が合ったという。

 「年齢の若い僕たちがこういう音をプレイする、っていうおもしろみは確かにあるよね。普通ならもっと年上の人たちが作るような音楽だと思うけど、それを僕たちもやってみようぜって。あの手の曲が好きだし、よく聴いているし、トライして悪いわけないと思ってさ。まあ、実現できるかどうかはわからなかったけど……」(マイルズ)。

 「で、とりあえずやってみようと。それも、特に“Jackie”の一曲に限ったことではなくてね。あのとき2人でいろいろ喋って……リズムの部分についても話したし、他の曲も話題にしたよね」(アレックス)。

 「あのへんの世界にハマってて。あとデヴィッド・ボウイについても話し合った」(マイルズ)。

 「でも、何と言ってもスコット・ウォーカーの『Sings Jacques Brel』だね!」(アレックス)。

 「うん、何よりも刺激になった。プラス、彼のベスト盤『Boy Child』も。2人とも“Seventh Seal”“Plague”“Old Man's Back Again”の3曲がすごく好きで、それらの持つドラマティックな雰囲気を再現してみたかったんだ」(マイルズ)。

 「歌詞やサウンドも含めてね! ストリングスを使ったビッグな音響効果とか」(アレックス)。

 「そう、リヴァーブを利かせた音響を」(マイルズ)。

 ……という感じで、インタヴューはまるで2人の音楽談義。終始リラックス・ムードだ。間違いなくレコーディングも楽しげに進んだはず。何しろプロデューサーのジェイムス・フォードやストリングス・アレンジのファイナルファンタジーことオーウェン・パレットなど、アルバム参加者はそれぞれアレックス&マイルズの最高の理解者たち。そして興味の赴くままに60年代ポップスやヨーロッパ民俗音楽、そしてフォークやバカラック・ソングやモータウン・ナンバーまで、さまざまなアイデアを取り込んでサウンドを構築していった。

 「曲そのものを大切にしてるし、とにかくやってて楽しいんだよ。こういう音をやることのほうがかえって新鮮だし、勇敢だと思うんだ……どれだけギターにディストーションかかってるかとか、破壊的かとかいうよりもね。といっても、別に勇敢になりたくてアルバムを作ったわけじゃなく、単純にこういう曲が気に入ってるだけなんだけど」(アレックス)。

 すでにライヴや次作のアイデアも構想中とのこと。知識と想像力とセンスが三位一体で奏でるサウンドを、ぜひ愛でてください。

PROFILE

ラスト・シャドウ・パペッツ
アークティック・モンキーズのアレックス・ターナー(ヴォーカル/ギター)とラスカルズのマイルズ・ケイン(ヴォーカル/ギター)によるロック・ユニット。ライヴ共演をきっかけに2005年頃から親交を深め、2007年初頭に行われたアークティックのUKツアーにラスカルズが前座として帯同した際、本プロジェクトの話が浮上する。同年8月にシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・フォードをプロデューサーに迎え、フランスでレコーディングを敢行。2008年3月にはNYで初のライヴを行う。先行シングル“The Age Of The Understatement”が話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『The Age Of The Understatement』(Domino/HOSTESS)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年05月08日 22:00

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/妹沢 奈美