インタビュー

ASA

熱い空気を含んだアコースティック・ソウルが風に舞う・・アフリカ音楽の新たな表情を提示するナイジェリア出身の女性シンガー・ソングライターが登場!


  力んでいるわけじゃないのだが、そのまったりとしたナチュラルな節回しは、クールネスやメランコリーを湛えながら、実にソウルフル。言葉のひとつひとつが、静かにゆっくりと心に沁み入ってくる。そして、フォークとソウルを軸に、レゲエやジャズやアフロなどのさまざまなエレメンツがまろやかに溶け合ったサウンドは、品のいい都会的マナーに拠りつつも、大自然の中で育まれた野生児的な大らかさと土臭さを滲ませている。〈アーバン・アフロ・ブルー〉とでもいったキャッチフレーズが相応しい魅惑的な歌声だ。 

「さまざまな音楽を聴いて育ったから、どんなスタイルの音楽にもオープンなの。また私は、本来の母国語であるヨルバ語も習った。それによっても独自の表現方法が形成されたと思うわ」。

 ファースト・アルバム『Asa』が昨年秋にまずフランスでリリースされて以来、この半年ほどで、ヨーロッパ中のヒット・チャートを席巻してきたナイジェリア出身の女性シンガー・ソングライター、アシャ。ゴールデン・ウィークの直前に、満を持して日本盤化される。 

  寂寥感はジョーン・アーマトレイディング、ブルース感覚はニーナ・シモンやジーン・リー、前向きな力強さはローリン・ヒルやエリカ・バドゥ、フォーキーなカジュアルさはトレイシー・チャップマン……などなど、「私のお気に入り」と語るこうした先達からの強い影響は、誰もがすぐに聴き取れるはず。だが、そうした先例のお手軽なパッチワークなどに堕していないからこそ、ここまでの大反響を起こしているわけで。欧米の優れたポップ・ミュージックに学んでそのエッセンスを巧みに取り込みつつ、しかしアシャの軸足は常にアフリカの大地をしっかりと踏みしめてきた。

「盲目でグレイトな人。ナイジェリアでは地元のミュージシャンのプロデュースをたくさんやっている」と彼女が全幅の信頼を寄せるアレンジャー/プロデューサー/マルチ・プレイヤーのコプハムズ・エマニュエル・アスークォによるサウンド・プロダクションは、随所でアフリカン・テイストが散りばめられているし、また一部ヨルバ語を用いた本人による歌詞も、母国ナイジェリアをはじめとするアフリカ諸国の不条理とも言うべき貧困や不正などをモチーフとしている。もっとも「自分の周り、社会で実際起きていることを歌っているだけで、特定の人や組織を非難しているわけではない」という発言どおり、表現はあくまでもポエティックだが。そして何よりも、圧倒的な母性と包容力、ポジティヴィティーに溢れたアシャの大らかな声が、アフリカそのものではないか。 

「ビジネスや金銭が優先される産業社会にいる以上、私は自分のキャリアのベストを尽くすためにもオープンな姿勢で新しいことを試し続けたいと思う。でも、私はヨルバ族であり、ナイジェリア人。部族出身ではないのに偽って歌おうとする、迷子のアフリカ人ではないの。自分がどこから来たのかということを私はわかっているし、そこから逸脱したくない。〈暗黒大陸〉からだってたくさんのポジティヴなこと、美しいものが生まれているってことを世界に見てもらいたい。いつだって、私の歌を聴くすべての人々が希望を持ってくれればと祈っているの」。 

 グローバルで都会的なポップ・ミュージックをめざしつつ、しかし意識はどこまでも前向きなアフリカン。己のルーツを知る者はやはり強いということか。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年05月15日 20:00

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/松山 晋也