インタビュー

フルカワミキ

〈束縛〉に鋭い牙を立て、個性をキラッと尖らせた新作。このキュートなハートの裏には、したたかな狂気が隠されている!


  「1枚目を出した後、〈ボンデージ〉っていう言葉がパッと浮かんだんですよね。それと同時に、次(の作品)は〈自由〉と逆の意味を持つ言葉を使いたいな、とも思っていて。日本の状況って豊かで煌びやかに見えるけど、実際は足元がグラつくような不安定な要素がたくさんあるし、お互い監視し合うような風潮になっている気がして、なんだか窮屈というか。それは自分の環境にも重なることで、例えばモノを作る時も、時間とか制作費とか暗黙のルールみたいなよくわかんないもの(笑)とか、いろんな制約があるし。でもそのぶん、納得いくものができた時の喜びって、すごく強いんです」。

そんな思いから、フルカワミキが1年9か月ぶりのニュー・アルバムに冠したタイトルは『Bondage Heart』。訳すと〈束縛された心〉となるが、額面どおりの意味でないことは、宇川直宏が手掛けたヴィジュアル・イメージとジャケット・デザインからも感じ取ることができる。〈女ドラキュラ〉に扮してキュートな牙を覗かせる彼女と、その牙が貫通し、くっきりとふたつの穴が空いたハート型のアイコンは、ポップ・フィールドの中でいかにみずからの個性を尖らせ、風穴を開けていくか、という彼女のなかのエッジが反映されているように思う。

「音楽をやる時って、きれいに整えすぎるより汚したいって思うんです。今回のアルバムで言えば、“Luminous Wind”で終わってもいいけど最後に“サイコア*リカ”を持ってきてたり、それぞれの曲でも、普段は隠してる狂気……というか裏衝動みたいなもの(笑)を音に昇華したいと思っていて」。

前作『Mirrors』発表時のツアー・メンバーであるiLLこと中村弘二に勝井祐二、ナスノミツル、城戸紘志らと共に制作された本作は、「メンバー同士、イヴェントやライヴで試しながら歩み寄ってきた音の感覚、音を出すことでのコミュニケーションを深めたい」という意識を持ってスタジオに入り、ゆっくり時間をかけて録音されたもの。そうして完成したのは、フィードバック・ノイズや繊細なディレイを響かせるギター、幻想世界へと誘うヴァイオリン、甘いメロディーを辿るコケティッシュな歌声を軸に、ハードなドライヴ感とソフトなサイケ感が滑らかに溶け合う、ポップなロック・アルバムだ。

「前作でやったエレクトロな音もそうだけど、自分はいろんな音楽が好きで、違う分野でもやってみたい音楽がたくさんあって……でもその前の手順として、自分にとっては基本的な〈バンド・サウンド〉をきちんとやっておく必要があったというか。あと、ライヴが想像できる感じだとか、ヴォーカルだったら家で曲が出来た時に歌っていたようなリラックスした雰囲気とか、そういう空気感をパッケージしたいと思っていたので、そこも含めてこのアルバムでは自分の好みの音やノリをすごくわかりやすい形で提示できたんじゃないかな、と思います」。

〈束縛〉があるからこそ際立つ〈自由〉。彼女がみずからの牙で開けた風穴からは、創造力に満ちた音楽が溢れ出している。

▼フルカワミキの作品を一部紹介。

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掲載: 2008年05月15日 23:00

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/土田 真弓

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