インタビュー

9dw

ソロ・プロジェクトならぬ〈トリオ編成〉で挑んだニュー・アルバムは、清々しさ満点のエレクトリック・フュージョン作!


  前情報なくこの『9dw』という作品を耳にした場合、生々しい質感を持ったエレクトリック・フュージョン、またはカラフルなクロスオーヴァー・ファンクといった印象を持つかもしれない。だが今作を作り上げたのは、かつて抑えきれぬ感情を爆音のなかに閉じ込めて国内外のハードコア・シーンで支持を得た9dw(NINE DAYS WONDER)だ。「昔からグラインドコアやAORをいっしょに聴くようなムチャクチャなリスナーだったんですよ(笑)」と話す、オリジナル・メンバーの斉藤健介(ギター、キーボード)。2007年から9dwは彼のソロ・プロジェクトへと形を変えていた。

 「戸惑いはありましたよ。自分が表現したいものがそれ(ハードコア)と離れていっちゃってたから」(斉藤)。

 斉藤はバンド編成時代の9dwをそう振り返る。「自分にウソつくことはできないんですよね。とにかく自分と向き合って」いくなかで辿り着いたのは、自身のルーツのひとつでもあるフュージョン。ただし、これをキーワードとしていながらも、今作にはあらゆるジャンルを呑み込む懐の深さがある。

 「自分はスケート・カルチャーのストリート感に影響を受けてるから、そういったものをとおして何でもありのテイストが好きになったところはあります。ダンス・ミュージックでフュージョンを採り入れているものも多いし、そのブレンド具合も好きですね」(斉藤)。

  カーク・ディジョージオやスピリット・キャッチャーをそのキーワードとして挙げ、「結果的にファンク感を感じられるかがキモ」と話す彼。『9dw』の制作は当初プログラミング主体で進めていたというが、やっぱり生の演奏感にはこだわりたい、という理由から、10代の頃にはいっしょにバンドを組んでいたこともあるという、NXSなどで活動する佐藤幸司(ドラムス)を招いた。

 「デモ音源をもらった時、〈もったいない!〉と思ったんですね。自分のプレイのほうが良い作品にできると思ったし、プログラミングのビートと自分のプレイをミックスしてみようと思った」(佐藤)。

 録音を進めながら、新しいバンドの形をゼロから作っていく――結果的に9dwは、エンジニアを務めた林田涼太を含むトリオ編成になったと言えるだろう。しかも、どこまでも自由で、斉藤のヴィジョンを思う存分表現できる形の――。斉藤は「清々しい気持ちですよ。充実してました」と1年以上に渡った制作期間を振り返る。その清々しさは『9dw』にもはっきりと刻まれ、このユニークなエレクトリック・フュージョン作品を聴いていると晴れやかな気持ちになってくるのだ。9dwという新グループの誕生を祝福したい。

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掲載: 2008年05月15日 23:00

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/大石 始