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インタビュー

Jamie Lidell

温かくハートフルな歌声とゴージャスなパフォーマンスで世界の心を奪った伊達男。自身の愛称を冠した新作は、さらに洗練されたスタンダード感に溢れているぞ!!


 ドギモを抜くライヴ・パフォーマンスで多くの人々を惹き付け、所属するワープでも異質の輝きを放っている奇才、ジェイミー・リデル。シンガーとしてのスタンスを確立した前作『Multiply』の発表後、彼を取り巻く環境は大きく様変わりして、ベックのワールド・ツアーや数々のビッグ・フェスに参加、またエルトン・ジョンまでもが彼のファンであることを公言するなど、激動といっても大袈裟ではないほど多くの出来事が次々に起こっている。

「前はたくさんの人たちが僕のことを〈抽象的でわかりにくいエレクトロニック・ミュージックを作っている変なヤツ〉と思っていたんだろうけど、『Multiply』を出した後は〈ワオ、彼は本当に歌えるんだ!〉って驚いてたようだね」。

 ハービー・ハンコック“Rockit”の近未来感覚、プリンスが可能性を押し広げたドラムマシーンやシンセサイザーの創造性、パーラメントのヒルビリー・ファンク、そしてマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーなどから影響を受けてきたというジェイミーらしく、3年ぶりとなるニュー・アルバム『Jim』では前作同様にファンクやソウルへのストレートな憧憬が表現されている。しかし単なる前作の二番煎じには終わらず、バックの演奏やコーラス~ハーモニーがリッチになり、より洗練された印象を聴き手に与える作品へと進化している点は見逃せない。

「確かに洗練されている部分はアルバムのなかであると思う。モダンでスタイリッシュなレストランで豪華なディナーを食べるようなね。でも同時に功利主義的というか、ポイントへとストレートに向かっていくような部分もあると思う。もっとシンプルでお腹を満たすことだけが目的の食事みたいにね」。

 そんな今回のアルバムで新鮮だったのが“Rope Of Sand”だ。ダンサブルでファンキーで陽気で、ワクワクさせるような昂揚感を備えた楽曲が並ぶなか、爽やかさとムーディーな空気を持った曲調でしっとり聴かせるこのトラックは、アルバムにいっそうの広がりをもたらしている。

「禅的なストーリーの曲なんだ。〈もし勝ちたくも負けたくもないのなら、いったいどうしたいんだ?〉というアイデアで、これ以上がんばることを諦めようとしている状況……ある種のパラドックスを表現しようとしたんだ。それと、もし何かを掴んでずっと離したくないと思っていても、現実には永遠に変わらないものなんてない、砂でできたロープみたいにね。ロープはいまの状況から君を引っ張ってくれるし、持ち上げてもくれる。でも、それが砂でできていたら永遠に持っていることは不可能だし、ただの幻想になってしまうんだ」。

 そうした詞世界と共に特筆すべきはヴォーカルだろう。非常にクリアで生々しく、ジェイミーの歌声の持つパワーがダイレクトに伝わるよう、レコーディングで細かな配慮がなされたであろうことも窺わせるクォリティーなのだ。

「僕がアーティストとしてオファーすることのできるいちばん重要なものは自分の声で、アルバムのうち何曲かでは、あえて他の楽器の演奏をあまり入れていないものもある。自分の声こそが僕の楽器だからね。だからアルバムのなかで声がしっかり特徴づけられるように努めたんだ」。

 非常にポジティヴな姿勢で制作され、高いミュージシャンシップを発揮した『Jim』が世界的な反響を呼ぶのはすでに決定したようなもので、このリリースを境にわれわれは彼のさらなる快進撃を見届けることになりそうだ。さらには4人の経験豊富なミュージシャンを従えたライヴ・パフォーマンスも予定しているようで、近いうちにまたあの金ラメ衣装を目にする機会にも恵まれるに違いない。

「僕はぜひ日本でプレイしたいと思っているんだ。ライヴをするのには世界でいちばんの場所だと思うからね」。

▼ジェイミー・リデルの作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年05月22日 03:00

更新: 2008年05月22日 17:25

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/青木 正之