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インタビュー

ミドリ


  ミドリと書いて〈音楽快楽主義〉と読む。後藤まりこがステージでセーラー服を着ようと、徹底してセックスや恋愛を描いた歌詞が物議を醸そうと、彼らは最初から絶対的に音楽家であり続けている。そこに揺るぎはない。フリージャズの持つ知性と、日本古来の祭りのお囃子とも通じる野性、そして意外にも音楽そのものに忠実であろうとする品性。彼らのことを知ったのは、もう何年も前、関西インディー・シーンの重要レーベルであるGYUUNE CASSETTEの須原敬三に教えてもらったことがきっかけだったが、メジャー・デビューの噂が聞こえてきても、そのパフォーマンスが騒がれるようになっても、メンバーが上京してきても、1月から岩見のとっつあんを正式ベーシストに迎えて4人体制になっても、そこにまったくブレはない。ミドリはごくあたりまえのように音楽好きの集団である。

 「今回、ボク、初めてスタジオで歌詞を書いたんです。いままではレコーディング前に歌詞の内容をメンバーに見せることはなかったんですけど、なんか、見せたくなった。〈こういう歌詞やねん〉って見せることで、メンバーに歌詞の内容も意識してほしいって気持ちが出てきたんかもしれへん。ホンマは楽しい曲やないんやけどな、っていうような誤解もなくなったし」(後藤まりこ)。

 もともと自分の書く歌詞に照れがあるという後藤は、いまも言葉のチョイスなどに反省が絶えないという。しかし、新メンバーである岩見の発案もあり、事前に歌詞世界を共有することで4人のアンサンブルにはより立体感が出てきた。結果、これまでになく作業がスムースに進んだというニュー・アルバム『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』は、例えば〈No New York〉時代のコントーションズやDNAあたりを思い出させる、一見本能の産物的な内容であると共に、計算されたアンサンブルを構築していくことができるプロフェッショナルなバンドであることを証明した一枚でもあるだろう。実際、即興をベースに作られたような柔軟なグルーヴの上で、ポップなリフが踊り、羞恥心を孕んだシャウトがとぐろを巻くような楽曲の数々は、原始時代の雨乞いの踊りのようでありながら、どこかで冷静な音楽理論に貫かれてもいる。パンキッシュで一発録りを重んじるような印象を与える一方で、今回は初めてギターのオーヴァーダビングにもチャレンジしたのだそう。その両極端でアンビヴァレントな資質に引き裂かれる寸前の悲鳴を快楽へと導くから、彼らの音楽を聴いていると単純に腰が動いてくる。そういう意味では、ミドリはダンス・ミュージックとも言えるのだろうか?

 「そうかもしれない。確かに、ミドリってこう、身体が動くような感じの曲が多いですよね。サンバとかラテンっぽい雰囲気がある感じもする。土着的なところがあるバンドかもしれないですよね」(ハジメ)。

 「僕と後藤さんは岸和田のだんじり祭りとかを小さい頃から体験してきていて、僕は和太鼓も叩くんですけど、身体の中にそういうお祭りのビートがあるのかもしれないです」(小銭喜剛)。

 「ボクは阿波踊りも好き。踊るアホウに見るアホウやな。ボク、そうやって滑稽に見せるようなのって好きなんです。普通の格好して、小さい音で〈好き……〉とかって歌うのって、別に嫌いやないけど恥ずかしいねん。おっきい音は恥ずかしさを隠してくれる。だからミドリって爆音なんですよ。〈好きなんです。すいませんね!〉みたいな感じ(笑)。でも、そうやっておもしろく悲しい曲を聴かせて、それで笑ったりしてくれたら嬉しいな」(後藤)。

 「聴いてくれる人に対しては、ちょっとイジワルなところがあるバンドかもしれないですね。でも、こんなんしたらおもしろいかな?って自分らで楽しんでるだけなんですけどね」(ハジメ)。

PROFILE

ミドリ
後藤まりこ(ギター/ヴォーカル)、小銭喜剛(ドラムス)、ハジメ(キーボード)、岩見のとっつあん(ベース)から成る4人組。2003年に後藤と小銭を中心に大阪で結成され、ライヴを中心に活動を開始する。その後数回のメンバー・チェンジを経て、2004年にハジメが加入。2005年にファースト・アルバム『ファースト』をリリース。2007年にはセカンド・アルバム『セカンド♥』を発表し、〈サマソニ〉〈ライジング・サン〉など数々のフェスに参加して注目を集める。同年ミニ・アルバム『清水』をリリース。さらに今年1月に岩見のとっつあんが正式メンバーとして加入し、このたびサード・アルバム『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』(ソニー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年05月29日 21:00

ソース: 『bounce』 299号(2008/5/25)

文/岡村 詩野