インタビュー

詩音

抜群の歌唱力で紡がれる甘く切ないベイサイド・ストーリー……限りない可能性を秘めたキャンディーはどんな味がする?


 「理想のシンガー像はないです。逆に〈理想の人〉と言われるようになりたいですね。現場の叩き上げでもプロフェッショナルなことのできるアーティストが、アンダーグラウンドから出てこられるということを証明したいんです」。

 10歳で大手エージェンシーにスカウトされてから現在に至るまで、日常のほとんどをレッスンに費やし、このたび初のアルバム『Candy Girl』を発表する横浜生まれの〈ベイサイド・ディーヴァ〉こと詩音。その通称をタトゥーとして自身の身体に刻むほど気に入っているそうだが、決して俗に言うBガールやリル・キムのような桁外れのビッチというわけではない。幼稚園からアメリカン・スクールに通っていた彼女には、ミュージカルにも出演し、アルト・サックス奏者としてジャズ・バンドに抜擢された経歴まであるのだ。また、デトロイトでキース・ジョン(スティーヴィ-・ワンダーらのコーラスを務めるシンガー)直々にトレーニングを受けた彼女を、一口に〈新人〉とは呼べないだろう。

「親が経営するショット・バーではいつもマーヴィン・ゲイやダイアナ・ロスがかかっていました。ブラック・ミュージックのアーティストたちからいろんなことを学んできたのは確かなんですが、自分の方向性を型にはめたくはないんです。例えばニルヴァーナだって聴くし、いわゆるJ-Popだって好きだし。実際に今回のアルバムも、40曲ぐらいのいろんなジャンルの持ち歌からピックしたという感じなんです!」。

〈キャンディーのようにいろいろな味を出せるアーティストになりたい〉という思いが込められた『Candy Girl』は、パーティー・チューンからバラードまで将来性を感じさせる良曲揃いだ。ヴォーカルも力強く、高音でハモる部分がまた美しい。なかでも携帯サイトでリリース前にデモ・ヴァージョンが3万ダウンロードを記録している“Last Song”は、スロウなビートとハンドクラップに絡むヴァイオリンとピアノの生音が心地良い仕上がりだ。活動の場がウェッサイ系ヒップホップのクラブであるのは事実だが、それはあくまでも詩音の日常の一部。ロックやポップスはもちろん、ジャズやゴスペルも得意とし、新人ではあり得ないような出来事もすでに経験済みだという。

「プロダクションで勉強させてもらっていた時は、自分の好きな歌だけを歌えるわけではなかったし、制約が多かったんです。その頃クラブでアルバイトをしていて、アンダーグラウンドのアーティストたちがそこで自由に活動しているのを見て、自分も現場で勉強したい!と思ったんです。ビジネスを意識したレッスンで学ぶことの限界を感じていました。リアルな音楽を作りたかったんです」。

 その〈現場〉を通じて知り合った仲間たちとの共演も聴きどころのひとつだろう。BIG RONやDAZZLE 4 LIFEといった5組のアーティストを客演に迎え、AILIやDJ☆GOらがプロデューサーとして携わっている。共演に関しては、「コラボの時に提案していることがあって。お互いがトラックに対するイメージをいくつか書き出した後に、一致するキーワードを見つけてから作詞していくんです。お互いの意見を採り入れていくこの作業がすごく好き」と笑顔で教えてくれた。世界中の男を虜にするようなキュートでセクシーな歌声の持ち主にそんなことを言われたら相手も萌えるはず(?)。一方で、みずからピアノやコルネット、サックスを操る彼女だけに、今後トラックメイキングへの参加は?

「キャンディ・ダルファーのライヴを観てアルト・サックスを習いはじめたので、将来的にそれは視野にあります。いまはとりあえず目の前のことをがんばるのみです!」。

『Candy Girl』をイントロからアウトロまでとおして聴けば、誰でもすぐに〈失恋のアルバムだ〉とわかる。コンセプトは〈恋愛か夢か〉で葛藤した実話に基づいていて、歌詞は「いつも自分のこと」だとも話してくれた。なので、次作はぜひハッピーな歌詞でいっぱいのアルバムになることを願ってしまう……。

▼『Candy Girl』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年06月05日 17:00

更新: 2008年06月05日 17:58

ソース: 『bounce』 299号(2008/5/25)

文/アント

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