インタビュー

naomi & goro

ボサノヴァ50周年を迎えた今年。〈新しいハーモニー〉を追い求める2人が、ボサノヴァ・スタンダードのカヴァーに挑戦した新作を発表!


  ボサノヴァ・デュオ、naomi & goroの新作が到着した。“Desafinado”“Garota De Ipanema”“Aguas De Marco”といったボサノヴァの名曲カヴァーを中心に構成された6枚目となるフル・アルバムのタイトルは『Bossa Nova Songbook 1』。と、ここまで読んで、大方の第一印象を察するに〈この方向性、ボサノヴァのミュージシャンにとっては、あまりにも直球すぎやしないか?〉のはず。確かに、アントニオ・カルロス・ジョビンが作った楽曲、またはジョアン・ジルベルトがレパートリーとしている曲でアルバムは埋め尽くされている(“Un Selo”のみギタリスト/プロデューサーである伊藤ゴローの手によるインスト曲で、弦の深い響きがたゆたう佳曲だ)。布施尚美の伸びやかな歌と、伊藤ゴローのギターに、フルートやストリングス、ドラムスなどがさりげなく色を添える。そのシンプル極まりないスタイルはジョアン・ジルベルト・マナーを継承するこのデュオの面目躍如たるものだが、なぜにここまで一見、王道とも思えるコンセプトを掲げたのか。

  「楽曲そのものが持っている良さを引き出したかった。ボサノヴァはブラジル以外の国の人がカヴァーすると、どうしてもいろんな要素を詰め込んだり、曲の持つ特徴的な部分だけをデフォルメしたりすることが多いと思うんです」(伊藤ゴロー:以下同)。

 そこで「曲の雰囲気やテンポを原曲になるべく近い形で録音したかった」と彼は言う。また「少しでも変化をつけようと思うと、かえってニュアンスが崩れてしまうんです」とも。しかし、〈教科書的に演奏してみました〉というわけでは決してない。

 「ブラジル人のアーティストと話していると、誰もが自分のハーモニー感を持っていることに気付きます。ボサノヴァのスタンダードを演奏しても、人によってはハーモニーの付け方が違うんです。ジョアンも常にハーモニーのことを考えている。しかもその考え方は常に進化しているんです」。

 そして、naomi & goroもまたこれらの名曲たちに新しいハーモニーを忍び込ませている。

 「あくまでも隠し味としてです。よく聴かなければわからないと思いますが」。

 そのハーモニーをピアノでさらに重ねたのが、2曲に参加している坂本龍一。ツボを押さえた引き算的ともいうべきプレイでありながら、誰もが耳を奪われるに違いないメロディーがnaomi & goroの演奏と調和している。しかも、なにやらセクシーな雰囲気さえも孕んでいるのだ。独特のニュアンスとハーモニーがぎりぎりのところでバランスを取り、しかもリスナーには心地良さを連れてきてくれる。彼らが今作で表現したのは、ボサノヴァの複雑でおもしろい〈素〉の部分なのである。

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掲載: 2008年06月05日 17:00

更新: 2008年06月05日 18:14

ソース: 『bounce』 299号(2008/5/25)

文/中林 直樹