インタビュー

SISTER JET 『our first love EP』

 

SISTER JET_特集カバー

 

なんという昂揚感! 1960年代半ばにロンドンのライヴハウスで鳴らされていたアッパーでワイルドなビートが、2000年代後半の東京・福生のパブに継承されていたなんて。2006年には〈フジロック〉の新人枠〈ROOKIE A GO-GO〉にも出演した、とびきりヤンチャでロマンティックなロックンロールを体現する3人組。「いい曲を作っていいライヴをやる。それしか考えてなかった」(WATARU.S、ヴォーカル/ギター)という彼らがセル・アウトしたファースト・ミニ・アルバム『our first love EP』は、初期のザ・フーを彷彿とさせる性急なリフ、パワフルに弾けるビート、キラキラ輝くキャッチーなメロディーで、リスナーの胸をギューッと鷲掴みにする。

「ありがとうございます! 僕ら、もうフーのつもりでやってますから(笑)。フーのどこが好きかって、少年たちが集まって、ひたすら〈ワーッ!〉と音を出してる雰囲気なんですよね」(WATARU)。

そう、彼らの最大の魅力はその〈フレッシュな破天荒ぶり〉。悪ノリもご愛嬌とばかりに、とにかく〈プレイすることが楽しい!〉といった空気が作品全体から溢れ出している。

「(ギターを持ってニコニコとリズムをとる動作をしながら)僕はビートルズみたいにやりたいんですけど、ドラムがどんどんヒートアップしていくんですよ(笑)。まさにキース・ムーン状態ですよね(笑)。そうなるとギターも歌も聴こえなくなっちゃうから、自分もどんどんアンプのヴォリュームも上げていくしかなくて、結局最後には〈ウワー!!〉って。パーティーどころか祭りになります(笑)」(WATARU)。

とは言え、彼らは単に勢いのみで押し切るバンドではない。つんのめり気味の衝動をコントロールし、リスナーの意識を至福の上昇気流に乗せる――たとえば〈パ・パ・パ・コーラス〉をはじめとしたカラフルでポップなエッセンスが、本作にはまんべんなく散りばめられている。ビートルズやキンクスやザ・フーが掻き鳴らした痛快なビート ・ロックをイマ風にブラッシュアップする手助けをしたのが、共同プロデューサーとして参加した片寄明人(GREAT 3)だ。

 

SISTER JET_A

 

「エモーショナルな部分はあるけれど、そっちへ寄り過ぎてはいないし、最近はUKロックっぽい日本のバンドも出てきてますけど、そっちに寄り過ぎてもいない。僕らはちょうど中間だと思うんですよね。そこに片寄さんが入ったことで変わったところっていうと……聴いた時のおしゃれ感(笑)?」(WATARU)。

「自分たち3人で作ってたら、もっと汗の量が違ってたというか。3人だけだと汗ダラッダラのところが、片寄さんが入ったことで(汗を)軽くひと拭きするぐらいになった、っていう感じですね(笑)」(KENSUKE AOKI、ドラムス)。

「あと、コーラスは勉強になりました。(ヴォーカルを)いっぱい重ねて録ったり。よーく聴いてもらうと、僕がウィスパー・ヴォイスで〈♪~〉って言ってる部分もあるんです。なんて言ってるかは内緒ですが(笑)」(WATARU)。

「片寄さんに言われたことを演ってる時には〈こんなにポップな感じ、アリ!?〉って思ったりしたんですけど、出来たものを聴いてみるとすごくハマってて。全体が聴きやすくなったと思います」(SHOW SAKABE、ベース/コーラス)。

ちなみに「自分たちの音源をいろんな場所でよく聴く」というSAKABEに〈どんなシチュエーションが一番ハマったか?〉という質問を投げてみたところ、「家の近くに多摩川が流れてるんですけど、その川沿いをママチャリで、時速30キロぐらいで〈ウワー!〉ってとばしてた時かな……」と照れながら返してきた。その後、3人で「中1かよ!」と大爆笑していたが、いやいや、その〈中1感〉が大事。それは徹底して〈ボーイ meets ガール〉な物語を綴った歌詞と相まって、sister jetのサウンドに瑞々しく甘酸っぱい疾走感と、リスナーを選ばない普遍性を与えている。

「ちょうどこの作品を作ってた頃、初期のビートルズをよく聴いてたんですけど、誰にでも伝わるシンプルなことを書きたいな、と思って。〈ボーイ meets ガール〉的なことって、どんな人が聴いてもわかるじゃないですか。“La La Dance”なんて、小学生とか中学生でも届くと思いますよ。中学生にはまだ〈好きです〉って言われたことはないですけど、僕ら、ビートルズとかの60年代ロックをリアルタイムで聴いてたくらいの年齢の人たちに、〈いいね〉って言ってもらえることが多いんです。福生のライヴハウスで週1ぐらいのペースでライヴをやってた時には、〈一体この人はどういう暮らしをしてるんだろう?〉って思うようなヤバそうなおじさんに〈オマエら格別だ!〉って言われたり(笑)。シンプルで、わかりやすくて、力強い。今回の作品は、ホントに幅広い人たちに届く作品になったと思います」(WATARU)。

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2008年06月05日 18:00

更新: 2010年02月08日 17:39

インタヴュー・文/土田真弓