CURUMIN
最近は落ち着いたアコースティックな音楽性をウリにするアーティストも増えているブラジル音楽の世界だが、このクルミンはなかなかのクセ者だ。2005年のファースト・アルバム『Achados E Perdidos』がDJシャドウのクアナムからUSリリースされて本国以外でも注目を集め、このたび2作目となる『Japan Pop Show』をリリース。ブラジルの先住民・トゥピの言葉で〈ませガキ〉を意味するクルミンという名で活動するあたりから、すでにひと癖ありそうな気配だ。両親は日系2世とスペイン系。“Sambito(Totaru Shock)”は日本語でも歌い、“Salto No Vacuo Com Joelhada(=飛び膝蹴り)”なる曲名は、80年代にブラジルで観ていた日本のTVアニメ「キックの鬼」からきているという。
「ゴチャ混ぜっていうのはブラジルのスタイルそのものだよ。文化も人種もミックスがベースにあるからね。でも、自分の音楽スタイルをあえてひと言で表すならサンバだと思う。いわゆるトラディショナルなものではなくて、いろいろと進化して他のスタイルを採り入れたサンバ……いわば〈ミュータント・サンバ〉だね!」。
こう語る彼だが、特に“Compacto”に顕著なように、ジョルジ・ベンジョールからの影響が大きいようだ。
「ジョルジ・ベンジョールにはものすごく影響を受けている。彼のいちばんの魅力は、なんといってもサンバに新しい道を拓いたことさ。僕自身を含め、多くのアーティストが続いていくことになる道をね。なかでも好きなのは60~70年代と80年代初期だね」。
現在、クルミンは31歳。子供の頃はディーヴォやB-52'sなどが好きで、アイアン・メイデンの大ファンにもなり、デビュー・アルバムではスティーヴィー・ワンダーの“You Haven't Done Nothing”を取り上げていたりもする。スティーヴィーの曲というとリスペクトが先に立った実直なカヴァーが多いけど、クルミンは挑発的にグチャグチャにしていて、逆にエラいと思う。
「“You Haven't Done Nothing”は、僕がギター・リフをトライしていたら、みんなが〈これだ!〉と思ったんだよ。おもしろいのは、この曲ってニクソン政権に対する曲だと思うけど、僕たちもスティーヴィーが批判していたシチュエーションとすごく似た状況にあるってこと! ブッシュ&ルーラ政権のね」。
“Caixa Preta”にはベネガォン(プラネット・ヘンプ)とルカス・サンタナも参加し、息の合ったところを見せる。
「2人は素晴らしい友人で、良き音楽パートナー。彼らはバイリ・ファンキのオリジナルの街であるリオ出身で、そのムーヴメントにも深く関わっていた。ベネガォンと(この曲のビートメイカーである)テジョは、バイリ・ファンキのセカンド・ジェネレーション・スタイルでいっしょにプレイしている。僕もこのスタイルが大好きで、次の作品ではもっとこのローファイな第3世界的エレクトロニック・サウンドを突き詰めたいと思っているくらいさ」。
ヒップホップ系で言うと、さらに“Kyoto”ではブラッカリシャスとラティーフ・ザ・トゥルーススピーカーも参加している。
「“Kyoto”が生まれたいきさつはおもしろいんだ。数年前にクアナムからブラッカリシャスの『The Craft』のビートを使ってプロモ用のリズムを作ってみてと頼まれた。それで思ったんだ、〈よし、アメリカ人の友達をからかってやろう〉って。これもすごくブラジル的な発想だね! ちょうどその頃、地球温暖化についての会議で論争が繰り広げられていて、京都議定書に同意しなかったのがアメリカだった。だから新作にこの曲を入れようと思って、彼らにいっしょにやろうよって言ったんだよ」。
交わってこそのブラジル音楽、そう考えるクルミンの〈ミュータント・サンバ〉。その得体の知れない感触は、大きな可能性を秘めている。
PROFILE
クルミン
本名ルシアーノ・ナカタ・アウブケルキ。ブラジルはサンパウロ出身のシンガー・ソングライター。日系2世とスペイン系の両親を持ち、8歳でバンドを結成。14歳の頃には地元で有名な打楽器奏者となる。音楽学校に進学後は、サンバやファンクなどをミックスさせたバンドで活動。その後、アルナンド・アントゥネスやリノ・クリスなどのアーティストと共演するようになり、海外公演も経験する。2005年にファースト・アルバム『Achados E Perdidos』を発表。USではクアナムからリリースされた。2006年にはトミ-・ゲレロの『From The Soil To The Soul』に参加して広く注目を集める。このたびセカンド・アルバム『Japan Pop Show』(Urban Jungle/YB/ビクター)を発表したばかり。