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インタビュー

ライヴ・レポート!! nhhmbase presents 13 「空欄に千とするコスモス」 @渋谷 O-nest 2008年6月21日(土)

  にせんねんもんだい、OOIOOというツワモノ女子バンドに続いてふらりと登場した4人は、「はじめます。nhhmbaseです」という宣言と共に、攻撃的な“蜻蛉日記”でスタート。どこから見ても正気ではなさそうな渡邊英輝による歪んだベースが、スピード感溢れる楽曲を牽引する。一般的にはギターが担うであろうロックの暴力性を一手に引き受け、後ろ向きなアグレッシヴさを全身から発しながらも絶対に観客側を向かない――そんな彼の背中は、否が応でも目を惹く。変拍子を特徴とする彼らだけに、最初はドラムの川村文康とタイミングを合わせているのかと思ったが、続く“ひだまりのうた”の最中に観客が上げた奇声に反応し、一瞬振り向いた際の嬉しそうな表情を見て、ひとり納得。ああ、彼は極度の〈恥ずかしがり屋〉なんだな、と。それは恐らく、プレイ中はほとんど表情を崩さないギターの入井昇も同じなのだろう(ちなみに彼は、テンションが上がると姿勢を低く沈めるのでフロア側の視界から消えてしまう)。

マモルの「なんかしゃべる? 記念に」という振りに対して、渡邊が「今日は……nhhmbaseです。(ニュー・アルバムが)先行発売……です」と、たどたどしいMCで応えると、遮るように入井のギター・フレーズが。“黒く塗れ”だ。デビュー・ミニ・アルバム『nhhmbase』の冒頭を飾るこの曲には、〈楽曲の骨組みを解体し、あるべき音をしかるべき位置に置いていく〉というネハン・サウンドの構造がもっともわかりやすく表れているのではないだろうか? 独自のリズムを刻む5つのメロディーが針の先のような点で交錯しながら、ひとつの不可思議なグルーヴを構築していく。身体が自然に反応する。

 「今日売ってるCDのリード・トラックの“コインゲーム”っていう曲をやります」……と、ギターのイントロが刻まれるが、ベースとのタイミングが合わず中断。「緊張がほぐれた!」と、マモル。生モノであるライヴをハプニングも含めて楽しんでいる彼の姿を前に、観客は大盛り上がりだ。

  「じゃ、ピアノの曲をやります」――そう語ると、4人はマモルによるピアノを中心とした“残像s”“ANA”を連発。楽器のうちのひとつが鍵盤に変わったことによって、各パートのメロディーがよりはっきりと聴こえてくる。特に“ANA”では、彼らの楽曲を再現するには非常に高度な演奏力が必要なのだ、ということがありありと感じられた。綱渡りのように危ういバランスで絡み合うリズムがスリリングであり、いびつであり、異様にポップ。一期一会の音を耳にしている瞬間だ。

 「これアルバムのタイトルの曲なんですけど」と、突然マモルが“波紋クロス”を歌い始める。続く“無題”から間髪入れずに突入したのは、不穏さと爆発力がnhhmbaseの楽曲のなかでもトップ・クラスを誇る“ointo60”と“PLネットワーク”だ。イントロからフロアは沸騰し、〈オイ・コール〉が巻き起こる。マモルはピート・タウンゼントばりのギター捌きを見せ、さらに奇声を上げて観客に応える。

 「じゃ、あの、パ、パ、“パラソルライフ”をやりたいんですけど。これもまた、もう聴いている方がいると思うんですけども……」というマモルの曲紹介の途中で、コントのようにふたたび入井のギターが割り込む。……が、“コインゲーム”に続いてまたも入りのタイミングが合わず。それもそのはず、この曲は新作のなかでも特にキャッチーで歌心溢れるリード・トラックだが、拍の外し方、突っ込み方の微妙なタイミングはもう神業である。

  「それでは、ここでスペシャルなゲストをお呼びします。EGO-WRAPPIN’のよっちゃんです!」と、マモルに導かれて登場したのは、本日のスペシャル・ゲストの中納良恵。カヴァーを2曲披露してくれたが、まずはビートルズの“Mother Nature's Son”から。音飾やフレーズはネハン風にアレンジしてあるが、そこに中納の慈愛深い歌声が重なると、会場はどこかホーリーな空気に包まれる。マモルとのハーモニーも美しい。そして続くは、なんとブルーハーツの“未来は僕等の手の中”。当然、フロアのテンションはどこまでも高く駆け上がる。

  アンコールは“フラット”と“9/8”。この2曲が孕む空気感同様、O-nestはドラマティックに、カオティックに完全燃焼し(ラストはさすがの渡邊もステージ前面に出てきていた)、この日のステージは終了した。

 見た目はスカスカでありながら、よく目を凝らせば精密機械のような繊細さでメロディーが積み重ねられているnhhmbaseの楽曲は、ライヴで再現されるたびに柔軟にその表情を変化させる。表情どころか、細胞から変わっているんじゃないか?と錯覚するほどの劇的な転身を遂げることもある。モノラルからステレオへ、音源からライヴへ。彼らが放つ生々しい音は、リズムの〈揺れ〉やメロディーが絡み合う点の〈ずれ〉をものともせず、破壊的な威力で聴き手の理性を吹き飛ばす。立体的に膨らみゆく音像を支える楽曲の骨組みが強固であるからこそ、彼らはそんな離れ業をやってのけることができるのだ。

 何気ない風情だけど、この4人って、つくづく、すごいバンドだと思う。

nhhmbase presents 13 「空欄に千とするコスモス」 セットリスト

1. 蜻蛉日記
2. ひだまりのうた
3. 黒く塗れ
4. コインゲーム
5. 残像s
6. ANA
7. 波紋クロス
8. 無題
9. oint60
10. PLネットワーク
11. パラソルライフ
12. Mother Nature's Son
13. 未来は僕等の手の中
―アンコール―
14. フラット
15. 9/8

▼文中に登場したアーティストの作品

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2008年07月03日 18:00

更新: 2008年07月03日 18:56

文/土田 真弓

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