インタビュー

KARL WOLF


 ウルフといっても、ギターも千代の富士も関係ない。ダンスホール・ポップ流儀でTOTOをカヴァーした“Africa”にて注目を集める、カール・ウルフのことだ。カナダとドバイを拠点に活動するこの新進シンガーがこのたび『Karl Wolf』で日本デビューを果たす。

 レバノンはベイルートに生まれ、幼少時に内戦を避けてドバイへと移り……という環境を想像するのは容易じゃないが、音楽好きな両親に育てられたことがカールの未来を大きく左右した。子供の頃からマイケル・ジャクソンやブライアン・マックナイト、ボーイズIIメンなどUSの音楽に魅了されていたというカールは、20歳の頃にカナダのモントリオールへ移住し、まずは裏方として音楽に関わっていくことになる。

「オレは80年代育ちなんだけど、当時の音楽はエモーショナルだったと思う。オレの音楽には現代的な要素もあるけど、感情を出すことも恐れていないよ。オレが好きな音楽はそういうものなんだ」。

 世紀が変わったあたりからソングライターとして大活躍し、カナダ国内のさまざまなアワードを受賞。その歌唱力を乞われてスカイというユニットでの活動も行っていた。が、やがてカールはソロ・アーティストとしての自身に焦点を当てていく。

「遅かれ早かれ、オレ自身の音楽というものに集中しなくちゃいけない。いまやらなきゃ、その思いさえも衰えてしまうと自分に言い聞かせたんだ」。

 そうやってキャリア・プランを立てた彼は、仕事のオファーなどを遮断すべく、スタジオにこもって生活を送ったのだという。いわく「自分自身を閉じ込めたんだ。インスピレーションが浮かぶ瞬間に、絶対スタジオにいられるようにね」とは実にストイックな姿勢じゃないか。まあ、「2年間、ほとんど外に出なかった。ヒゲは伸ばしっぱなしで、宅配ピザばかり注文してたな」という発言は正直どうかと思うが……その奮闘は2005年の初ソロ作『Face Behind The Face』に実を結んだ。全編セルフ・プロデュースによる同作からは、“Desensitize”と“Butterflies”の2曲がヒットを記録(前者には日本でも知られたカナダのラッパー、ショクレアが客演)し、翌年のサウンズ・オブ・ブラックネス・アワードで最優秀R&Bアーティスト部門を受賞。〈カナダ版グラミー〉とも呼ばれるジュノ・アワードにもノミネートされている。さらには世界各国にライセンスされた結果、アルバムはドバイを含む中東でもヒット。カールは逆輸入という形で故郷の人気者となったのだ。2007年には、件の“Africa”も含むセカンド・アルバム『Bite The Bullet』を発表。そして、その2枚のアルバムから楽曲を選りすぐったのが、今回の日本デビュー作『Karl Wolf』というわけだ。

 カナダ産のR&Bアクトといえば、近年ではレミー・シャンドやキーシャ・シャンテ、コリー・リーといった名前も思い出されるが、その多くがUS志向を前に出していたのに対し、カールの音楽はもっと折り目正しいポップ性を優先している。USマナーのR&Bにレゲエやヒップホップをトッピングしてはいても、独特の甘い歌声がそこに親しみやすさを刻み込んでいるのだ。一方で“Summer Days(In Beirut)”のリリックには躊躇することなく平和への願いを織り込んでいたりして、幼い頃から争いや憎しみの存在を間近に感じてきた彼ならではの説得力も用意されている。

「オレはリリックを通じて平和のメッセージを訴えていきたい。アーティストには影響力があるんだから、子供たちに素晴らしい影響を与えていきたいのさ」。

 なお、今回の日本デビューに続いては、ニーヨのオープニング・アクトを務めることも決定しているとのこと。世界中が狼の姿を目撃する日も近そうだ。

「胸が高鳴るよ。いまよりもっといろんなことが起こるだろうからね」。

PROFILE

カール・ウルフ
78年生まれ、レバノンはベイルート出身のR&Bシンガー。幼い頃にドバイへ移住し、欧米の音楽に親しんで育つ。20歳の時にカナダのモントリオールへ移り、ソングライティングやプロデュース活動を開始。2002年にポップ・ユニットのスカイに加入し、翌年にはアルバム『Picture Perfect』を発表する。その後ソロ・シンガーに転身し、2005年にファースト・アルバム『Face Behind The Face』をリリース。同作のヒットを受けて、メアリーJ・ブライジやローリン・ヒルらのオープニング・アクトにも抜擢される。2007年には2作目『Bite The Bullett』を発表し、カナダや中東を中心に成功を収めた。このたび日本独自編集盤『Karl Wolf』(EMI Music Japan)をリリースしたばかり。

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掲載: 2008年07月03日 00:00

更新: 2008年07月03日 17:46

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/轟 ひろみ