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インタビュー

LATE OF THE PIER


  クラクソンズ以降、いまだ衰えることを知らないUKダンス・ロックの潮流。次から次へとさまざまなバンドが登場し、各音楽誌でも毎号ヴィヴィッドなカラーのTシャツとタイトなデニム姿の注目新人が紹介されまくっている。いったいどのバンドが本当にカッコイイのか?──それすら把握し難い混沌とした状況と、浮かれたお祭り騒ぎは90年代のブリット・ポップを思い起こさせ、過去の巨大化したムーヴメントの寂しい末路を考えると少し不安になってしまう今日この頃だ。しかし、そんな筆者の余計な杞憂を一掃する強烈なニューカマーが登場した。それが〈ケイジャン・ダンス・パーティーと並ぶ2008年最高の新人〉と言われている、ノッティンガム出身のレイト・オブ・ザ・ピアーである。

 ビートルズやレッド・ツェッペリン、クイーンを愛聴してきた4人の若者(全員20歳そこそこ)が、いかにして〈ポスト・クラクソンズ〉と呼ばれる次世代ニューレイヴの担い手へと進化を遂げたのだろう? シンセサイザー&その他もろもろを担当するというバンドの頭脳、サム・ポッター(以下同)が、ファースト・アルバム『Fantasy Black Channel』制作時のエピソードをこう語ってくれた。

「アルバムを作る時にみんながよく聴いていた音楽が、そのまま作品に影響されてるんじゃないかな? 実は4人ともいろいろな音楽趣味を持っているんだ。で、ちょうどレコーディング時にハマっていたのが、ビースティ・ボーイズやゲイリー・ニューマン、ディーヴォやダフト・パンクといったアーティストだった。で、必然的にジャムってたら……って感じだよ」。

 ここでバンドのキャリアを少しだけ振り返っておこう。10代の頃から通い詰めていた地元のクラブでダンス・ロックと出会い、バンドの方向性を見い出す。その後、ウェスト・ロンドンでもっとも有名なパーティー〈Way Out West Out Night〉でのパフォーマンスが〈クラクソンズを越えた!〉とプレスに大きく取り上げられ、あれよあれよとデビューにまで漕ぎ着けたわけだ。ちなみに、その存在にいち早く注目していたのが、今作でもプロデュースを務めているUKクラブ・ミュージック界の重鎮、エロール・アルカン。彼は〈どの年代の現存するバンド群と比べても桁違いにエキサイティング!〉と絶賛している。 

「エロールとは2年くらい前に友達を介して出会ったんだ。本人もそう言ってるけど、彼は自分をプロデューサーだと思ってない。だから凄く仕事がしやすいね。スーパーヴァイザー的な、中立的な立場から僕たちの思いもよらないアイデアをドンドン出してくれる。彼から得るものは計り知れないね。とにかく引き出しの数がハンパないんだよ」。

 ニューウェイヴ色の強いカラフルで享楽的な80'sポップ・テイストと、ダークで混沌としたエレクトロ・ミュージック――この2つの要素が信じられないくらいスマートに溶け合っているのが彼らのサウンドの特徴であり、その飽くなき実験精神がバンドを唯一無二の存在に進化させている。ちなみに、バンドのコンセプトは「常に実験!」なのだとか。

「いつも意外がられるんだけど、僕たちは昔のロックが大好きなんだよ。それらが根っこにあるうえで、サミュエル(・イーストゲート)はエレクトロも聴いてます、アンドリュー(・ファレイ)はクラシックも嗜んでます……みたいなジャンルレスというか、ボーダレスなバンドになれたらおもしろいかな。ひたすら実験を続け、メンバー全員がハッピーでいられるバンドでありたいね!」。

 そんな彼らは、この夏〈サマソニ〉で来日を果たす。薄暗いダンス・ステージで繰り広げられる究めて独創的な〈ロックとダンスの愉快な実験〉に、オーディエンスも全員ハッピーになること間違いなし!

PROFILE

レイト・オブ・ザ・ピアー
サミュエル・イーストゲート(ヴォーカル)、サム・ポッター(シンセサイザー/プログラミング)、アンドリュー・ファレイ(ベース)、ロス・ドウソン(ドラムス)から成る4人組。2005年にUKはノッティンガムで結成。2006年3月に行われた〈Way Out West Out Night〉でのライヴをきっかけに、ウェイ・アウト・ウェストからファースト・シングル“Space And The Woods”をリリース。2007年10月にエロール・アルカンをプロデューサーに迎えたセカンド・シングル“Bathroom Gurgle”をモシ・モシより発表。今年に入ってパーロフォン傘下に自主レーベルを立ち上げ、8月6日にファースト・アルバム『Fantasy Black Channel』(Zarcop/Parlophone/EMI Music Japan)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年08月21日 21:00

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/白神 篤史