インタビュー

KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'S

普通だったり普通じゃなかったりする普通の日常を、普通にライムに乗せて、普通に届けることのできる才能……いま最高に注目を集めるはぐれ者たちが、その普通じゃない結晶をようやく生み落とす!!


 「ビートも自由で、キックとスネアさえあれば何の音を乗っけたって、歌い方次第で変わってくる。〈この快感はクラブにねえな〉みたいな」(鎮座DOPENESS)。

「〈アンダーグラウンド病〉のままでやってても、おじいちゃんや子連れのお母さんは普通に素通りしてっちゃう。オープンな感じでパフォーマンスしてると笑いながら観てってくれるし、やっぱやってる限りは観てもらいたいですからね」(カトマイラ)。

 凝り固まった自分たちの内なる〈アンダーグラウンド病〉を、たった3人で始めた路上パフォーマンスによって晴らしていったKOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'Sは、かつての姿が嘘のように、いま悠々と自分たちの音楽を形にして届けている。中学時代に日本語ラップの洗礼を受けてリリックを書きはじめ、近年はソロも含めてヒップホップ外のパーティーや客演仕事でマイクを握る機会も多い鎮座DOPENESS。中3でBOOWYのビデオ「LAST GIGS」を観て火が点いたという音楽への気持ちを、鎮座に誘われるまま始めたラップへと向けたSABO。ダンス経由で日本語ラップにハマり、〈BLACK MONDAY〉など当時の現場に通いつつ、かつては現ケツメイシのRYOJIともグループを組んでいたカトマイラ。メンバー脱退を経て現在はこの3MCをもってグループとするその姿は、今回のファースト・アルバム『HAGULIFE』にも、ユーモアたっぷりに表われている。「通しでひとつの作品に見せたいし、途中で停止ボタンを押されたくない」(SABO)という思いは全11曲のタイトな構成に反映。ハレの場から解き放たれ、普段着で(しかしその実、巧妙に)鳴らされる彼らの音楽は、口酸っぱい思いも、たまる苦虫もすべて噛み潰し、流れる彼らの日々を飄々と表現したものだ。それは、「普通の兄ちゃんたちにもあるだろう」(鎮座DOPENESS)トピックも含めて素直に辿り着いた言葉で綴られる、鎮座DOPENESSが言うところの「日本語ラップ版ラモーンズのファースト・アルバム」だ。

「笑って、ラップをやりたくなっちゃうみたいな、そんなテンション。とりあえず痛快に終わらせたかったし、その時のレコーディングやテンション、感覚、その空気感を出すことができた」(鎮座DOPENESS)。

 SKYFISHやDJ FAMILY、櫻井響らによるサウンドのカラフルさもまた、輪に加わる人を拒まぬ彼らの空気を捉えたもの。それでもなお彼らは日本語ラッパーであることにこだわり続ける。

「日本語ラップがいかに自由で楽しい音楽であるかというのも見せたかった。ヒップホップの手法はポップスにも使われてるから、ホントにヒップホップが好きで聴いてた奴らがいかにそれをしっかり取り戻して、お茶の間の人にもう一回届けられるかだと思う」(鎮座DOPENESS)。

「個人的には楽しいところにいられればいいかな」(SABO)とも話すメンバーたちを前にこういう言い方をすると話は大きくなってしまうが、3人の音楽に未来のちょっとした芽を見ることは、決して間違いじゃないはずだ。

▼『HAGULIFE』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年08月21日 22:00

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/一ノ木 裕之

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