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インタビュー

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ふたたび2人組で再出発した新作は、自身のルーツを押し出したパーソナルな趣。ポップでカラフル、だけどホロ苦さもある。そんな人間味に溢れた中身とは?


 〈前人未到のブレイクビーツ・ミュージカル〉を標榜した昨年のアルバム『GOLDEN LOVE』は、□□□にとってひとつの到達点であった。それはつまり、彼らがこれまでにやってきたこと――クラブ・カルチャーを通過した、わかりやすくてハイブリッドなポップス――を集約した、□□□の美学に満ちた作品だったということだ。

「『GOLDEN LOVE』はやり切った感じがした。でも、“Tonight”を作ったら、〈その先があったか〉って自分で思えて。この1曲で、『GOLDEN LOVE』1枚分くらいの情報量はあるから。〈ブレイクビーツ・ミュージカルの完成版〉って感じ。これができたから、他の曲は力を抜いて作れた」(三浦康嗣、ヴォーカル/キーボード/プログラミング:以下同)。

 彼がそう言うように、ニュー・アルバム『Tonight』の表題曲はとんでもない仕上がりとなった。〈自殺〉をテーマにしながらも、サンプリングと生演奏と行進曲とポエトリー・リーディングとミュージカルを煮詰めて出来上がったような、めまぐるしすぎる展開を見せた超問題曲と言える。本作にはそれ以外にも、従来の路線であるわかりやすい歌モノあり、サンプリングを駆使したハウスあり、ソフトなダブもある。しかしここで特に注目したいのが、ドス黒いラップ曲が含まれていることだ。それは□□□というユニットが、これまでわかりやすく見せることのなかった〈ルーツ〉の表出でもある。

「これまでは、聴いた人の音楽背景によって聴こえ方が変わる音楽だったと思うし、J-Popっていう形に落とし込んでいた。でも今回は歌詞も楽曲もあまり考えずに好きなように作ったんだよね。そっちのほうが自分が思っていることをブレなくリスナーに伝えられるんじゃないかって考えるようになってきて。自分が単純にリスナーだった頃は誤解も込みで音楽を楽しんでいたけど、いまはそういう時代じゃないと思う。であれば、好きな音楽をそのままやってしまったほうが伝わりやすいんじゃないかなと。だから少ない音数で成り立っていて、強度があるもの――キックとスネアとベースだけで成り立つような音楽を作ってもいいかなって」。

 その言葉どおり、“WORLD/MONEY”“Lets Get It On”“AM2:08”といった前半~中盤にかけての楽曲では、〈黒さ〉を剥き出しにしている。サンプリングとエディットを武器に、ある意味優等生的に良質なポップスを作ろうとしてきた彼らの変化に驚く向きもあろう。だがこの変化は、□□□が自身の内面を深く見せようとするドキュメントでもあるのだ。

「ヴァラエティーはこれまで以上にあるアルバムになったと思うんだけど、ストイックというか、暗いんだよね。考えすぎないで作ったぶん、パーソナルで内省的なもの、という感じ。何かを狙って作っていない。だからそれだけ身軽だと思うし、強いアルバムになったんじゃないかって」。

 書き忘れたが、今年リリースしたミニ・アルバム『snowflake』制作時にCUBISMO GRAFICO FIVEなどで活動する村田シゲ(ベース/ギター/プログラミング)が加入、その直後に結成時からのメンバーである南波一海が脱退し、現在オリジナル・メンバーは三浦1人となった。つまり『Tonight』の内省とは作詞作曲のすべてに関与する彼自身の内面であり、今作のフィジカルさは、イコール三浦の音楽体験を基にして作られたものなのだ。

『Tonight』は□□□史上もっとも誠実で人間味に溢れ、小賢しさがなく、アンスタイリッシュな作品である。しかし、このアルバムが含んだ熱は、どうしようもなく美しく光を放って見えるのだ。

▼□□□の作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年09月25日 23:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/ヤング係長