インタビュー

NICO Touches the Walls


  メジャー・デビューが昨年11月だから、わずか10か月の間にミニ・アルバム~シングル3枚~フル・アルバムという怒涛のリリースをやってのけたことになる。ライヴも多く、今年8月は毎週フェスへ出演し、一風変わったバンド名を大観衆の記憶に刷り込んだ。ステージ上では手が付けられないほど熱いけれど、普段は驚くほど物静かな平均年齢23歳の男たち、NICO Touches the Walls。彼らのこの1年に渡る急激な成長ぶりを詰め込んだのが、ファースト・フル・アルバム『Who are you?』だ。

「それ以上でもそれ以下でもなく、経験が活かされたアルバムだと思います。インディーからやってきたこと、ミニ・アルバムとシングルでやれたこと、すべてがひとつになりました」(古村大介)。

「バンドの間口の広さを出すという、ずっと同じテーマを持ち続けていたので満足のいく終着点になったと思います。それぞれが、それぞれの音の隙間に入り込む感覚がイイ感じになってきました」(坂倉心悟)。

 彼らの音楽のキーワードは、一言で言えば〈スタンダードでありたい〉ということだ。フェイヴァリット・アーティストを問われれば、スピッツやサザンオールスターズ、バート・バカラック、スティーヴィー・ワンダーなどを挙げ、ビートルズ〈White Album〉のゴッタ煮感が理想だという光村龍哉が作る楽曲。そこには〈ネクスト・ブレイクはコイツらだ〉的な安易なキャッチ・コピーを超えた、骨太な音楽観がある。

「奇を衒ったものはひとつもないし、スタンダードなものが12曲並んだと思います。いまはスタンダードなものを楽しむ人が少なくなっていってる時代なのかなと思うんですよ。4つ打ちブームだったりして、もちろんノレる音楽だと思うけど、過去にはもっと気持ち良いビートがたくさんあって、それが時代を作ってきたわけで……例えば“anytime, anywhere”はモータウン・サウンドというか、バックに女性コーラスが3人いるみたいなイメージで歌っているし、“B.C.G”のギターはすごいファズをかけてるけど、ビートはヴェンチャーズみたいな(笑)。それをいまやっても新鮮に思えるのは、何十年も変わらずにスタンダードであるからだと思うし、僕らはそれを自覚してやることに誇りを持ってる。そういう部分がちゃんと届いてくれたらいいなと思います」(光村龍哉)。

“夜の果て”“THE BUNGY”“Broken Youth”という先行シングル3曲の、派手でラウドでメロディックなナンバーのキャッチーさに惹かれた人はアコースティックな“ほっとした”や“葵”、ドリーミーなサウンドの“エトランジェ”などが持つ純粋で美しいメロディーに新鮮な感動を覚えるだろう。光村の歌は粘りの強い独特な節回しだが、スロウ~ミッド・チューンではより素直に、聴き手の心の奥へ温かい空気を送り込むように優しく響く。

「切なさや憂いを感じさせるのが自分たちらしい響きだと思っていて、特に“エトランジェ”はそれが120%出せたと思います。曲を作る、アレンジをする、歌詞を書くということは表裏一体で、その曲でしか意味をなさないものを最後まで追求できたと思います」(光村)。

 11月からは全国ツアーがスタートし、バンドはさらにもう一段階上への飛躍をめざす。このアルバムを引っ提げ、夏フェスの短い持ち時間では伝えきれなかった思いを直接届けに行きたいという4人の意気込みは非常に強い。安易を承知のうえで〈ネクスト・ブレイクはコイツらだ〉と、いまなら言っても良いだろう。

「最近、ライヴに若い人が増えたんです。もともと俺らの世代でもこういう音楽は楽めるよということを、同世代にわかってもらえると思ってやりはじめたので、すごく嬉しいです」(光村)。

「やってることは幅広いですけど、やりたいことはひとつ。それを生で感じてもらいたいです」(対馬祥太郎)。

PROFILE

NICO Touches the Walls
光村龍哉(ヴォーカル/ギター)、古村大介(ギター)、坂倉心悟(ベース)、対馬祥太郎(ドラムス)から成る4人組。2004年に結成され、都内を中心にライヴ活動を開始。2006年には音源発表前にも関わらずワンマン・ライヴで250名を集め、その後インディーでミニ・アルバム『Walls is Beginning』『runova×handover』を立て続けにリリース。〈ROCK IN JAPAN〉〈サマソニ〉のほか、CSTVやラジオ局主催のイヴェントにも出演するなど徐々に頭角を現す。2007年にはメジャーに移籍し、ミニ・アルバム『How are you?』を発表。続く“夜の果て”をはじめとした3枚のシングルで注目度を増すなか、このたびファースト・フル・アルバム『Who are you?』(キューン)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月02日 21:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/宮本 英夫