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インタビュー

THE COOL KIDS


  まるで88年からタイムスリップしてきたようなシカゴのヒップホップ・デュオが、いま大きな注目を集めている。往年のリック・ルービンやカーティス・マントロニックを彷彿とさせるサウンドに乗せて、〈It's the new black version of The Beastie Boys〉〈We're bringin' '88 back〉と豪語する彼らの名は、クール・キッズ。MCのマイキー・ロックとトラックメイカーのチャック・イングリッシュから成るこの2人組は、昨年初頭あたりからインターネット界隈で話題になった後、ディプロやM.I.A.のフックアップを経て、ついにはローリング・ストーン誌における〈Ten Artists to watch in 2008(2008年のもっとも注目すべき新人)〉に選出されてしまった。

「俺たちの信条は、音楽をふたたびクールなものにするってこと。ヒップホップって昔はクールだったよね? 別にドラマみたいに劇的なことが起こってるわけじゃなかった。いまって、なんかソープ・オペラみたいな感じじゃない? ラッパー同士で口論したり、ギャングスタを気取ったり……こういうのってクールじゃないと思うんだよ。ちょっと行きすぎてると思う。俺たちはヒップホップを普通の人たちにとってクールなものにしたいんだ。普通のことをやりながらクールなサウンドを作りたい」(マイキー:以下同)。

 そんなクール・キッズの事実上初のフィジカル・リリースとなるのが、今回日本盤化されたEP『The Bake Sale』だ。収録曲の大半は2006~2007年に制作されたもので、言わば彼らのベスト・レコーディング集的な内容。昨年、マーク・ロンソンが自身のポッドキャストで執拗にプレイしていた楽曲は、ほとんどここで聴くことができる。

「『The Bake Sale』はEPだから、言ってみればディナーみたいにきちんとした食事じゃない。ちょっとしたカップケーキって感じだね。つまり、俺たちのやってることをちょっとでも味わってほしいからベイク・セール(学校などの団体が資金集めのために手作りの菓子などを販売するバザー)なのさ。とりあえずこれでも食べててくれる?って感じ。どれも昔に作った曲さ」。

 デフ・ジャム期のリック・ルービン・サウンドを意識した“88”、ビースティ・ボーイズの“Paul Revere”とビズ・マーキーの“Vapors”を掛け合わせたような“Black Mags”、タイトルも笑わせてくれるマイアミ・ベース調の“Bassment Party”、スクーリー・D“P.S.K. What Does It Mean?”のビート・パターンを参照したと思われる“Jingling”……こうして紹介していくと単なる懐古趣味な連中に思われるかもしれないが、クール・キッズの音楽からはハイフィーやスナップ、ボルティモア・クラブからの強い影響も窺える。

「ハイフィーもスナップも聴くけど、自然な成り行きでそうなってるだけさ。俺たちは曲を作る前に話し合ったりしないからな。ただ何となく作りはじめて流れに任せるって感じだから、そういうのは意図的なものじゃない。そのときにいいなって思ったことをクリエイティヴにやっていくってことがいちばん大切だと思うんだ」。

 このEPに続き、年末には勝負作となる初のフル・アルバム『When Fish Ride Bicycles』のリリースを控えているクール・キッズ。〈クールの再生〉に挑む彼らは、80'sヒップホップのサウンドだけでなく、そのスピリットをも取り戻すことができるだろうか?

「『When Fish Ride Bicycles』で自分たちの地位を完全に確立するつもりだよ。どんなに前評判が高くても、新人アーティストの場合は時間的な制限があるんだ。その制限時間が終わるまでに、しっかりとした地位を確立しなくちゃならない。俺たちはすべてを最高の状態にして最高にクールなアルバムを作る。今後もずっと残っていけるようにがんばるよ」。

PROFILE

クール・キッズ
イリノイ州マットソン出身のマイキー・ロック(MC)とミシガン州マウントクレメンス出身のチャック・イングリッシュ(トラックメイカー)によるヒップホップ・デュオ。チャックのビートをマイキーがネット上で聴いたことを契機にして2005年頃に結成。〈MySpace〉で話題を集め、2007年に初音源集の『Totally Flossed Out』を自主制作。同年にはA・トラック主宰のフールズ・ゴールドから“88”を、チョコレート・インダストリーズから“Black Mags”をそれぞれシングル・リリースしている。今年に入ると、キッズ・イン・ザ・ホールとの共演などを経て10曲入りのセカンドEP『The Bake Sale』(C.A.K.E./XL/Beggars Japan)を発表。このたびその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月09日 19:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/高橋 芳朗