TV On The Radio
〈ロックの未来〉とか〈アート・ロックの後継者〉とか、そんなことはどうでもいいんだよ! それよりも、バンド史上最高にポップでダンサブルな新作といっしょに騒いでみないかい?
ダンサブルな作品にしたかったんだ
ロックの未来を切り拓いてくれるであろう最重要バンドから、ニュー・アルバム『Dear Science』がドロップされた。米Rolling Stone誌が〈もっとも注目すべきバンド〉と早いうちから目を付け、SPIN誌が彼らの前作『Return To Cookie Mountain』を2006年度の年間ベスト・アルバムと宣言したのをはじめ、多くの音楽誌&カルチャー誌からは称賛の言葉が惜しみなく降り注がれた。海を渡ったUKのNME誌に至っては、バンドの頭脳とも言えるデヴィッド・シーテックを〈未来の音楽界を担うもっとも先鋭的な50人〉のトップに掲げてしまったほど。そんなTVオン・ザ・レディオの新作である。ハードルが高くなってしまうのは当然ながら、外野の期待をまったく裏切らないどころか、またひとつ駒を進めて新たなランドスケープを描いてくれたのだから恐れ入る。
「これまでの作品では、物事を考えすぎたり、内容を濃くしすぎたりと、いま振り返ってみると〈やりすぎ感〉があったような気がするんだ。でも、今回は全員が成長していたし、多少のゆとりも出てきて、いろんな要素を削ぎ落とした余裕のあるサウンドが作れたんじゃないかな」(トゥンデ・アデビンペ、ヴォーカル:以下同)。
その〈余裕のあるサウンド〉とは、インディー・ロック色を匂わせていたこれまでのモヤモヤ感や陰気な部分を排斥したもの。スパッとクリーンに突き抜けているのが最大の変化と言えるだろう。彼らは〈自分たちなりにダンス・レコードみたいな作品を作ってみたかったんだ〉とコメントしているが、確かに作品全体にはそういった躍動感や開放的な気分が漲っている。
「前作の時に比べると、何となく明るくなった気がするよ。前はみんなにとっていろんな意味で暗い時期で……それを脱却したから、サウンドにも素直に表れているんだろうね。あと、デヴィッド(・シーテック、ギター)のプロデュースによるところもあると思うけど、違って聴こえるのはダンサブルな作品にしたかったからだと思う。とにかく〈みんなで楽しもう!〉っていう雰囲気が漂っていたんだ。そういう精神状態がアップリフティングな方向性へと作用したんだと思うな。アップビートにすると、おのずと使う音色も変わってくるし」。
これまではポスト・ロックの旗手として、やっていいこととやってはいけないことの間にみずから線を引き、制約を課してきた帰来もあった彼ら。だが、今作ではそんな足枷は取り外され、さまざまなアプローチに取り組んでいる。ファンクにダブに、ビート・ロックにエレクトロニカ……カラフルとは言わないまでも、セピア色くらいのユニークな音色が奔放に飛び出してくる。プロデュースを手掛けたデヴィッドのここ数年の活躍ぶりを思えば当然かもしれないが、実験性とバンドの肉体性が見事に合致した内容だ。
「彼に代わって断言はできないけれど、他のアーティストとの仕事で学んだこともあるんじゃないのかな。他のアーティストの全面プロデュースを行ったことで、クリエイティヴの経験値は上がっただろうし、サウンドの新しいフィールドを発見したはず。フォールズとスカーレット(・ヨハンソン)じゃ音楽的にまったく違っているわけで、そういう対極にある作品に携わることで視野が広がったんじゃない? レコーディングに関しては、デヴィッドが率先してやるからはっきり答えられないけど、特に苦労はなかったと思うよ。いままでで最短のレコーディング期間だったし、すべてがイイ感じで推移したね」。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2008年10月09日 19:00
更新: 2008年12月19日 14:55
ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)
文/村上 ひさし