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インタビュー

THE HEAVYMANNERS


  己を奮い立たせるように、時に彼の言葉は他者に対して厳しく、また激しい。単に他人を否定するのではなく、なぜ自分がそういうものと相容れないのかを、全身全霊、みずからが生み出す音楽によって証明しようとする秋本武士(以下同)。彼の誠実さは他に比類がない──「自分のなかで鳴っている音楽があるのにそれを演らないのは、音楽家としての機能を失った時」「いちばん研ぎ澄まされた音楽を演ろうと思って自分が作ったバンドに、新しいメンバー(GOTH-TRAD)を迎えようと提案した時、〈いまこれだけ受け入れられているのに、それを変える必要がどこにある〉と周りから大反対にあった」「例え一人になっても、自分の足でバスドラを叩きながらでも、音楽をやり続ける覚悟はしてる」──。

 成功を収めたバンド(DRY&HEAVY)からみずからの意思でもって離脱。REBEL FAMILIAにおける、レゲエ内に留まらないメッセージを真摯に届けるための挑戦。様式美化され、保守的になったレゲエ/ダブに対するアンチテーゼとしての、まったく新しい音楽表現を模索していくという冒険。この情熱に衝き動かされた行為/行動の結果、「みんなついて来てくれると信じてたけど、セールス面ではドラヘビ時代には及ばない、という体験もした」という苦い出来事すら、彼を怯ませ、立ち止まらせはしなかった。

「レゲエという音楽と出会い、そこからもらったメッセージをそのままずっと表現してきた。その過程でいろんなトラブルや障害もあって、結果、いまの自分は昔とは比べものにならないくらいタフになった」。

 その言葉の証明がここにある。秋本率いるTHE HEAVYMANNERSのファースト・アルバム『THE HEAVYMANNERS』だ。僕がいちばん信頼する友人たちは、この作品に対して〈最高レヴェルのバンド・サウンドによる生演奏のレゲエ/ダブ〉なる最大級の賛辞を送っていた。僕もそれにまったく異論はない!

「ジャマイカ人とは血が違うわけだから、それをひたすら練習によって補い続けてきた。普通の奴から見たら狂ったように映るかも知れないけど……。自分を追い詰め、それをバンドに還元していくために厳しい練習を続けてきたんです」。

 鍛え上げられたアスリートの運動を想起させるような、秋本の鬼気迫るグルーヴを湛えたベース・プレイ。それを軸に展開されるここでのサウンドが、彼の鍛錬を何よりも如実に物語っているだろう。スタイルとしては生演奏によるレゲエへの原点回帰。だが、〈保守的にはならない!〉という精神運動をみずからに課し続ける秋本らしく、アンダーグラウンド・ヒップホップ界の鬼才2人を迎えた緊迫感溢れるセッションも披露している。

「Shing02もKILLER BONGも基本的にはマナーが違う。音的な部分ではレゲエの人たちと演るほうが楽。でも、俺が思っているレベル・ミュージックという部分で、奴らは誰よりもしっくりくる」。

 彼らとの異種格闘技コラボに加え、秋本が「いちばん影響を受けて勉強してきた」というスライ・ダンバーとの真剣勝負セッションまでもが、今作では実現されている。

「自分のなかでもっとも思い入れの強い人たち(スライをはじめ、リンヴァル・トンプソンやイエローマンら)と演れたことに、縁というものを感じましたね」。 

 これら趣の異なる共演曲が一枚のアルバムに収められているのだが、違和感もバラつき感もなく、すべてがTHE HEAVYMANNERSの音として躍動している。

「会ったこともないし、イメージでしかないけれど……俺の音楽のファン、俺が演奏してきた音やメッセージに対して思い入れのあるファンこそが俺の財産」。

 今作を介して、秋本武士のそんな思いを共有してくれる人間が、たくさん生まれることを心から願いたい。

PROFILE

THE HEAVYMANNERS
DRY&HEAVYの元リーダーで、現在はGOTH-TRADとのREBEL FAMILIAでも活動している秋本武士(ベース)率いるレゲエ・バンド。現在の編成はTAKAFUMI TOHYAMA(ドラムス)、SUMIHIRO OISHI(ギター)、KAZUHIRO SUMI(キーボード)、NUNCHAKU(ダブ・ミックス)を含む5人組。2002年に〈フジロック〉でのShing02のステージで演奏を務め、その後、数多くのミュージシャンとリハーサルを行う。2007年、イヴェント〈RIDDIM CAMP〉を皮切りに本格的なライヴ活動を開始。今夏も〈SUNSET〉をはじめとするいくつかのフェスに参加して話題を集める。このたびファースト・アルバム『THE HEAVYMANNERS』(ビクター)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月16日 21:00

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/鈴木 智彦