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インタビュー

THE SCRIPT


  煙突から黒煙を上げる家々の屋根と、人間の手首のコラージュ。その手首の上では身体を合わせながら男女が踊っているが、よく見ると男の首部分からは天空に向けて虹が放たれている──思わず謎解きしたくなるような、シュールなジャケットを持つスクリプトのファースト・アルバム『The Script』は、内容についても、前情報なしに聴けば謎解きをしたくなるに違いない。というのも、R&Bやヒップホップの洗練とロックのダイナミズムを融合させたアーバン系のグループかと思えば、歌声に耳を澄ますと切ないまでのソウルフル・ヴォイスが見事なコーラス・ワークと共に響いてきて、ヴォーカル・グループ的な雰囲気もある。そんなイメージをひとつに限定しないあたりがおもしろいのだが、果たしてその正体は? それについて明かす前に、フロントマンのダニエル・オドナヒューが自分たちのライヴについて語った言葉を紹介しておこう。

「ステージに一歩足を踏み出した瞬間から、もう一度曲を生き返らせるつもりでやってるんだ。アルバムというのは、ある一定の時期に作られたもの。いってみれば、すでに過去だ。でもライヴでは毎回、現在進行形で曲が生きているんだよ。そのたびに傷をまた切り開き、ライヴが終わる頃までにはそれを縫うような……そんな感覚さ。本当の意味で僕らは生き様をステージでさらけ出しているから、そこには切迫感が生まれる」。

熱い。そして不器用なまでに誠実であろうとする純粋さが眩しい。なにしろこのバンド、実は情熱の国・アイルランド出身の3人組なのだ。とはいえ、ここからがドラマだったりする。ダブリンの街角で幼き日に出会い、音楽を始めたダニエルとマーク・シーハンは、テディ・ライリーやダラス・オースティンらにその才能を認められ、まずはUSでプロデュースやソングライティングのチームとして裏方仕事をすることに。8年に渡るR&B界での実地修行を考えると、デビュー作でいきなりアーバンな名曲を連発する様にも納得だ。そして、同じくアイルランド出身のグレン・パワーとLAで知り合い、「ようやく〈もう人のために書くのはやめて、自分たちのことをやりたい〉と思った」(ダニエル)という気持ちに後押しされて、スクリプトが誕生する。

一見するとあれこれ別々の場所に属すると思われがちな要素が、彼らの場合はごく自然に共存していることも、ゆえに謎ではない。むしろ、自分たちのバックグラウンドをそのまま映した状態であるし、知れば知るほどこのバンドのまったく嘘がない部分に惹かれてしまう。だからして、彼らのステージは必見だ。一度聴けば忘れられないメロディーラインがレコードとはまた違う種類の熱を帯びるそのライヴには、アイリッシュ集団ならではの情熱的な信念と音楽へのまっすぐな愛情が漲っていて、思わず惹き付けられてしまう。

「いろんな要素を全部ゴッタ煮にしたなかから、自然に自分たち独自のものが生まれていったんだ。だから誰にでも、どこかに聴き馴染みのあるものを見つけられると思う。あと、僕らには〈世界中で自分たちの音楽が聴かれるようになること〉っていう共通のゴールがあるからね。だから3人の思いがひとつになった時、耳を貸さずにはいられないパワーが生まれるんだと思うよ」(グレン)。

なるほど、パッと聴いてバックグラウンドがわからないからこそ、聴く側が自由に自分の物語を投影できる。民族も国籍も性別も、そこには関係ない。〈世界中で聴いてほしい〉というバンドの野望も、そんな個性を手にあっさりと達成してしまいそうだ。

PROFILE

スクリプト
アイルランド出身、ダニエル・オドナヒュー(ヴォーカル/ピアノ)、マーク・シーハン(ギター)、グレン・パワー(ドラムス)から成る3人組。ダニエルとマークはボーイズ・バンドのマイタウンとして活動し、98年にシングル“Party All Night”でデビュー。翌年にUS進出も果たすが、アルバム発表には至らず解散。その後、2人はアーロン・カーターやキーシャ・シャンテ、ナチュラルらのプロデュースを手掛けている。同時期にグレンと出会い、現在のバンドを結成。今年に入って、4月にシングル“We Cry”でデビューを果たし、9月にファースト・アルバム『The Script』(Phonogenic/RCA/BMG JAPAN)を発表する。このたびその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月30日 00:00

更新: 2008年10月30日 17:18

ソース: 『bounce』 304号(2008/10/25)

文/妹沢 奈美