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インタビュー

BIG RON

引く手数多のヴォイス・オブ・ウェッサイが、ピュアな心情をマイクに託した真摯なニュー・アルバム……愛に飢えたらこれを聴け!


  日本のヒップホップは独自の進化を遂げ、その多様性は他ジャンルのアーティストを唸らせるほどに成長している。USのウェストコースト・サウンドに影響を受けた、いわゆる〈ウェッサイ〉もそのひとつであり、長きに渡ってそのシーンを支えてきた人物としてBIG RONの名を挙げる者は多いだろう。横須賀の聖歌隊で鍛えたノドを武器に、甘い歌声で数々の客演をこなしてきた彼が自身名義4作目となるアルバムをついにドロップした。その名も『Much Love』。ウェッサイといえばこれまでギャングスタのダークな文化と背景を継承したものが定番だった。が、今作は違う。従来のウェッサイ的なイメージから程良く距離を置き、聴きやすさとメッセージ性に重点が置かれているのだ。なぜこのタイミングで〈愛〉をテーマにしようと考えたのか――そう問うと、BIG RONは優しく目を細めて微笑んだ。

「子供たちもヒップホップを聴くようになったいま、悪いことを歌うだけがヒップホップじゃないってことを示していかないと。男女の愛や家族愛や友情、すべてを包括した〈愛〉は人類永遠のテーマでもあるし」。

 なるほど、彼の言葉には説得力がある。確かにワルぶって格好付けるだけの時代は終わったのかもしれない。黎明期からジャパニーズ・ヒップホップのシーンを見守ってきたリスナーは、アーティストにどうしても精神性を求めてしまう。リアルとフェイクの境界線を引きたがり、大衆寄りの曲をセルアウトだと叩きたがる。しかし彼はこうも言う。

「子供にも聴かせられて、親ともいっしょに聴けるヒップホップを、いわゆるJ-Popではない枠でやりたくてね。今回の『Much Love』はその思いを実現したアルバムなんだ」。

 この熱い思いこそ、ヘッズが本来求めるべきヒップホップの精神性ではないのか。シーンは確実に進化し続けているし、そんな変化のなかで、取り残されているのはむしろリスナーのほうなのではないか。一時期、ヒップホップは不良少年が聴く音楽だと誤解されていた。間違った認識が広まることに多くのアーティストが危機感を持っていた。彼らは不良のボスではない。自身が表現者でありエンターテイナーであることを、BIG RONは恐らく随分前から強く意識していたのだろう。『Much Love』はまさに〈エンターテイメント〉と呼ぶに相応しい内容だ。オリコン初登場9位を達成してニュースにもなった詩音や、BIG RONの実弟であるRICHEE(GHETTO INC.)など、同作には彼の周辺で活躍するアーティストが集結して見事なコラボを披露している。特に詩音がBIG RON宛に書いたという“Sunshine”は要注目だ。シンガーとしての持ち味を最大に活かし、共演相手をクールにもスウィートにもフォローアップするBIG RONの才能には、ただひたすら感心させられる。

「売れる売れないとかじゃなく、心に響く歌を歌っていきたいんだ。その気持ちに賛同してくれたピュアな奴らだけで作ったアルバムだよ」。

 イメージだけで判断せずにまずは一度聴いてみてほしい。そんな言葉を軽く超越した思いが、曲間から溢れていることに気付けるはずだから。

▼『Much Love』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

▼BIG RONのアルバムを紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年11月20日 18:00

ソース: 『bounce』 304号(2008/10/25)

文/EGACHIN