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インタビュー

南波志帆(2)


――その昔は斉藤由貴とか原田知世とかね、知性を感じさせる……けど、アーティスティックな面を露呈するわけでもない十代のガール・ポップがあったじゃないですか。南波志帆の世界観はその類を感じさせるんです。〈つたなさ〉もあるけれど、十代なりの精一杯な〈凛々しさ〉もあって……例えば生徒会長とかのイメージにも通じる、一目置きたい存在感があるんですよね。

矢野 僕も性格上、作るにあたっていろいろ聴いて。武部聡志さんがアレンジしてた頃の斉藤由貴や、80年代の原田知世とか、ファン目線で聴いて、参考にしながらいろいろやってみました。そのへんの曲はちょっと〈賢い系〉というか、それは歌ってる本人のキャラクターもあったんだろうけど、そういう空気感や温度感は出していかないとなっていうのは漠然と思ってましたね。そういう意味では〈生徒会長〉っていう表現もアリですよね。実際、彼女は優等生で、同級生の男子から〈南波さん〉って呼ばれているらしいんですよ。〈南波!〉って呼ぶ男子は、女子から〈南波じゃなくて、南波さん〉ってたしなめられるみたいで(笑)。本人はどっちでもいいみたいですけど。まあ、ホントおもしろい子ですよ。

――〈15歳らしいポップス〉という話のつづきですが。

矢野 たぶん、大人たちが勝手にイメージを描いている、型を設けている〈15歳〉っていうのは、あからさまな萌え狙いのものが多かったりするので、彼女の場合、そういうレギュレーションは完全に捨てなきゃいけないなって思って。大人が思う15歳らしい歌をあてがっちゃうと、あまりイマジネーションが広がらないものになっちゃうし、彼女自身、ずっと歌っていきたいという意志があるので、型にハメちゃうのはもったいないなって思ったんですよ。違うわけじゃないですか、大人が描いている15歳と実際の15歳の実像って。だからまあ、曲を作るにあたって、〈夢日記〉というかたちで彼女に取材をしたんですよね。普段どんなことを夢見たり、考えたりしてるのかっていうことを毎朝メールしてもらって、それをとっかかりにしてイマジネーションを広げていこうと。彼女のなかから生み出されるものに合わせてこっちも考えていく、っていう状態をまず作りたかったんですよ。教えてあげるところは教えてあげるけど、基本的には彼女ありきでやっていかないとつまんないかなって。その時、その年頃にしかできないものっていっぱいあるから、彼女の成長とか変化をみながら、歌う内容とか作家のことも考えましたね。

――そこで参加してくれた作家陣が、キリンジの堀込泰行、宮川弾、土岐麻子、ノーナ・リーヴスの奥田健介と西寺郷太、羊毛とおはなの市川和則というメンツで。

矢野 作り方が作り方なので、僕とのコミュニケーションがとりやすいミュージシャンと一緒にやりたいなと思って、このへんの方々。僕個人が共同作業したことがある人たちにお願いしたんですね。曲も、こんな感じでってオーダーしたものもあれば、おまかせのものもあり。ファンタジーな詞もあるけど、とはいえ、マインドが透けて見えるような塩梅では作っているというか。まったく彼女と無関係な設定はしてないですね。妙にツッパッた歌とかないし(笑)。まあ、そういうものを引き出してくれたのは、彼女のキャラクターだと思うんですよ。曲を作る前に会ったのは僕だけですけど、僕からの説明だけでなんとなく〈あっ、そういうこと〉みたいな感じでイメージしてくれた作家の人たちもさすがですよ。

――さきほど斉藤由貴や原田知世の名前が挙がってましたけど、『はじめまして、私。』の作風は、作家陣が80年代のアイドル・ポップを体験している世代だからこそ、ですよね。

矢野 うん、僕らが30歳未満だったら、こういうまとめ方にはならなかったかも知れないですね。もしかしたら、単純に〈音の世界〉だけでまとめていたかもしれないです。やっぱり、これからずっと歌い続けてほしい女の子だし、音の面が最初からコンセプチュアルになり過ぎちゃうと、あとで融通が利かなくなるというかね。やっぱり、歌い手のマインドや成長に合わせた曲を与えてあげて、それを自然なかたちでパフォーマンスしてもらう――その積み重ねが本当の意味でのアーティストのキャリアになると思ってるし、僕らはポップス・ファンとして、そんなストーリーを楽しんできた世代ですからね。

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2008年11月20日 18:00

更新: 2008年11月21日 13:44

文/久保田泰平