インタビュー

S-WORD

ニトロ軍団の赤い彗星が、超待望のソロ作をドロップ!! 堂々たるキング宣言の意図、その奥底に詰め込まれた思いとは……?


  ソロとしては、実に5年ぶりとなるサード・アルバム『KING OF ZIPANG』を発表したS-WORD。ただ、リリースこそ5年ぶりながら、実際には2004年末に録りはじめ、2006年にはほぼ完成していたそうだ。「一昨年の時点で出せなかったのは、一言で言えば〈大人の事情〉(笑)。けど新しい扉を開けるには、いまこのタイミングで出すのが自分的にはちょうどいいと思ってる」とのことだが、しかし2~3年前に書いたメッセージをいま出すことに躊躇はなかったのだろうか。

「その時の自分といまの自分とでは、当然経験値も上がってるし、その時には見えなかったものがいま新しく見えたりもするだろうけど、今回のアルバムのテーマは〈誰にでも当てはまる普遍的なメッセージを届ける〉というものだったから、いま出しても違和感なく聴ける内容にはなっていると思う。自分がラップする意義って何かなと改めて考えた時に、やっぱり〈残るもの〉を作りたいなと思って。だからいつの時代にも聴ける普遍的なメッセージを書いたつもりだし、そうするために今回はスキルを見せることよりも伝わりやすさを重視した。(聴き手の)身体よりも心を動かしたいっていう意識のほうが強かったね」。

 そのような確固たるテーマを踏まえたうえで、〈日本におけるヒップホップの王道とは何ぞや?〉という命題にトライした本作。結果、一切ブレのない非常にコンシャスな作品に仕上がったが、そのなかで唯一、ラストに収録されているリード・トラック“MY PLEASURE”(藤井リナをフィーチャー)だけが他の曲とまったく違うテイストの曲となっている。

「すでに曲順まで2006年の時点で完成してたんだけど、今年に入ってからもうちょっと派手な曲があってもいいんじゃない?ってなって。普遍的なヒップホップの良さは表現できてるから、いまの旬のクラブ・シーンの音、エレクトロとかのニュアンスを採り入れて作ろうと思ったのがこの曲。だからリード・トラックだけど、ボーナス・トラック的な位置付けだね。けど、あくまでもこの曲は軸があるアルバムを作ったうえでの遊び。いまって軸がわからなくなってきてるじゃん。奇を衒って個性に走っちゃって、それも音楽の振り幅としてはいいんだけど、軸がないのにそんなことしちゃうと違う方向に飛んでっちゃうから。俺ら以降の世代で軸を示せてる人がいないし、軸のあるアルバムを普通に作ればこうなるんじゃないの?と思うんだけどね」。

 その他にも「ラップを始めた頃の気持ちに戻って作った」という“I JUST BE...”、コミカルななかにも深いメッセージが込められた“TOP SECRET!!”など全19曲を収めた『KING OF ZIPANG』。同作を「俺的ヒップホップ・マニフェスト」と称するS-WORDだが、その〈マニフェスト〉を提示することで日本のヒップホップ・シーンの活性化に少なからず貢献しているのは間違いないところだ。しかし当の本人は「〈シーン〉云々は、ぶっちゃけどうでもいいと思ってる」とのこと。そこには〈いい意味での矛盾〉が生じているような気がしてならないのだが、果たして彼の真意とは?

「確かに矛盾してるよね。矛盾してるけど、けど、誰もやらねえんだもん。見てるともどかしい。シーンにまったく興味がない俺がヒップホップに対してこんだけ言えるんだったら、シーンがどうこうって熱いこと言ってる人はもっとできんじゃないの?っていうアンチテーゼだね。まあ、愛があるからこそのアンチテーゼなのかもしれないけど。シーンを背負ってるつもりはまったくないけれど、自分にしかできない仕事があるんだったらやってみようかなって思うし、違うところで作用してみようと思って作ったのがこのアルバムだね」。

▼『KING OF ZIPANG』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2008年12月04日 07:00

更新: 2008年12月04日 18:30

ソース: 『bounce』 305号(2008/11/25)

文/川口 真紀

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