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インタビュー

VAN SHE


  以下、まずはおさらい。読者の方でシミアン・モバイル・ディスコを知らない人は少ないだろうが、あの2人組はもともとシミアンというギター・ロック・グループ(良いバンドでした)から派生したユニットである。また、飛ぶ鳥を落としまくっている2メニーDJsの兄弟も、母体は同じくギター・バンドのソウルワックスだ。つまりこれら最先端のエレクトロ・ユニット/DJチームは、元来の資質がバンド・メンバーとしての感性や創造と表裏一体となっているのである。

 さて、ここからが本題。オーストラリアのヴァン・シー・テックとヴァン・シーも、同じように表裏一体であるがゆえに、これからさらなる人気を得ていくに違いない。ちなみに前者はDJチームで、後者はかのアヴァランチーズも在籍するモデュラー所属のロック・バンド。ヴァン・シー名義ではミニ・アルバム『Van She EP』をロング・ヒットさせ、〈サマソニ07〉の〈Modular Night〉に出演したり、一方のヴァン・シー・テック名義ではDJとして来日したりと、すでにこのニューウェイヴ系の新世代オージー・エレクトロにやられている人も多いのではないだろうか。もしかしたら、クラクソンズやダフト・パンク、そしてファイストや大沢伸一などの曲を手掛けてきたリミキサーとして、彼らの名前を覚えている人もいるかもしれない。

 そんなさまざまな顔を持つ4人の青年が、本隊であるヴァン・シーとしてファースト・アルバム『V』をようやく完成させた。

「これがDJ的なサウンドの作り方かどうかはわからないけれど、僕らの場合、曲作りに〈制限がない〉ということは言えるな。楽曲での曲作りと打ち込み、つまりシーケンサーを使っての作業というのは別物だから、曲に合わせてそれぞれの要素を自由自在に扱える人間がバンドにいるのは良いことだと思うよ。今回のアルバムにも“Kelly”のリミックスをヴァン・シー・テックとして収録しているんだけど、ひとつの曲でさまざまな面が見せられるのは他のバンドにはない特徴かもね」。

 そう話すのは、取材に応じてくれたフロントマンのニコラス・ルートレッジ(以下同)。切なさと煌びやかさを同居させたメロディーに、懐かしさと新鮮さを併せ持ったシンセ・アレンジが印象的だが、かといって〈新しいこと〉を目論んで肩に力を入れているのではなく、サウンド全体からは伸び伸び音楽と向き合っている様が伝わってくる。

 そんな『V』には謎がある。それは完成までに時間がかかったこと。なにせ彼らのCDデビューは2005年だ。その間、常に“Kelly”をはじめとする名曲がガンガン届いていただけに、DJ/リミキサー資質(=曲重視)のほうが勝って、アルバム作りに興味がないのか……とも推測できたのだが。そのあたりを訊くと、リリース直後から英米豪はもとより南米&アジアまでのツアー生活が始まったことが、いちばんの理由だそう。なるほど、ジム・アビスをプロデューサーに選んだのも、ライヴではバンドとして演奏し続けたいがゆえの選択だと思えば納得がいく。なにしろジム・アビスといえば、ミュージックにアークティック・モンキーズにカサビアンにウィップにレイクスに……という顔ぶれを手掛けてきた人物だからだ。

「僕らは、打ち込みやプロダクションを重視した音とライヴ・バンドの音の両方をうまく融合できるプロデューサーと仕事がしたかったんだ。ジム・アビスはアークティック・モンキーズやカサビアン、それにDJシャドウなんかとも仕事をしている。だからこそ、僕らが望んでいる要素をすべて満たしてくれるプロデューサーだったんだ」。

 つまり『V』は、いろんな顔を持つ彼らの〈らしさ〉がバンドの意志としてきっちり封じ込められた作品なのだ。そのことがわかれば、次第に表題が勝利のVサインにすら見えてくるだろう。創造の勝利は、こうやって自分を知る者の手に宿るのだな~。

PROFILE

ヴァン・シー
ニコラス・ルートレッジ(ヴォーカル/ギター)、マット・ヴァン・シー(ベース)、マイケル・ディ・フランチェスコ(キーボード/ギター)、トーメク・アーチャー(ドラムス/シーケンサー)から成る4人組。2005年初頭にシドニーで結成され、11月にモデュラーよりデビュー・ミニ・アルバム『Van She EP』を発表。翌年からはヴァン・シー・テック名義でDJ活動を開始。ファイストやクラクソンズなどのリミックスを手掛けて知名度を上げる。今年に入ってリリースしたバンド名義でのシングル“Strangers”“Changes”が立て続けにヒットを記録するなか、9月に本国でファースト・アルバム『V』(Modular/ユニバーサル)を発表。12月10日にその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年12月11日 16:00

更新: 2008年12月19日 14:31

ソース: 『bounce』 305号(2008/11/25)

文/妹沢 奈美