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インタビュー

Tortured Soul


  DJフレンドリーな音楽を生演奏で表現する人たちのステージに触れて満足できることは、正直まだそう多くないと思う。だが、ロックやジャズやポップスのライヴを浴びてきたオーディエンスにすれば〈クラブ系だから、大目に見てよ〉というのも変な話だろう。なぜならトーチャード・ソウルのように、それを抜群に聴かせるグループがちゃんと存在しているからだ。

「ライヴはもう500本ぐらいやってるかな。〈Tokyo Crossover Jazz Festival〉でのショウは短い時間だったから、ずいぶん内容を凝縮したんだけどね」(ジョン・クリスチャン・ユーリック)。

 9月に〈TCJF〉で来日した彼らのライヴは、〈短い〉といっても1時間ぶっ通し。その間ドラマーのクリスチャンは完璧なハウス・ビートを叩き出しながら、すこぶるソウルフルに歌い続けた。鍵盤奏者のイーサン・ホワイト、ベーシストのジェイクリフと織り成す鉄壁のトリオ演奏は圧倒的にパワフル。そしてバンド演奏ならではの熱さと高いテンションが、何より心地良かった。

「グループのコンセプトを決めたのは僕なんだ。もともとリード・ヴォーカルを取りながらダンス・ミュージックをバンドで表現したくて。それでジャズ・ファンクをやる別のバンドにいた時に、そこに合流してきたイーサンとジェイクリフを誘ったんだよ。2001年頃の話だね」(クリスチャン)。

「小さい頃はクラシックをやっていて、カレッジではジャズ・ピアノを専攻したんだ。フェイヴァリットはハービー・ハンコックとデューク・エリントン。作曲家としては、エリントンとバッハかな」(イーサン・ホワイト)。

 もうひとり、弾性の強いファンキーなサウンドを聴かせるジェイクリフは、12歳の時にベースを始めたという。

「最初はロックだったよ。レッド・ツェッペリンやAC/DCが好きだったな。その後70年代のファンクやR&Bを好んでプレイするようになったんだ。ダニー・ハサウェイのバンドでベースを弾いていたウィリー・ウィークスが大好きでね」(ジェイクリフ)。

 3人ともカレッジで音楽を専攻した後、さまざまなバンドを渡り歩いては腕を磨いてきた。なお、クリスチャンの両親はそれぞれシアター系の歌手だそうで、彼の美声と抜群のヴォーカル・テクニックの背景が窺われる。また、ドラマーとしてのヒーローは、ツェッペリンの故ジョン・ボーナム、ポリスのスチュワート・コープランド、JB'sのクライド・スタブルフィールドということだ。

 さて、ニュー・アルバム『Did You Miss Me』は彼らの2作目にあたる。4年前にリリースされた前作『Introducing』と基本的な音作りは変わらないが、今回は〈3人だからこそ出せる味わい〉により重きを置いたという。

「前のアルバムは長い期間にリリースしていたシングルを中心に構成した形で、僕がプロデュースしたけれど、イーサンやジェイクリフが加わってない時期の曲も入っていたからね。新作のほうがずっと統一感があると思う。テーマには〈旅〉が関わっているね。哲学的な意味合いじゃなく、ツアーに出るとガールフレンドへの恋しさが募るだろ? そういう気持ちがアルバムのテーマとそれぞれの曲に反映されているんだ」(クリスチャン)。

 グループ名である〈Tortured Soul〉という慣用的なフレーズにも、〈誰かを強く思うが、その心が叶わない〉という意味合いがある。時に切なく歌われるクリスチャンのラヴソングの向こうには、そんな心持ちが滲んでいるのだ。『Did You Miss Me』では、ノーザン・ソウル的に響く曲や、70年代のヒット・チャート・ソングを思わせる、どこかエヴァーグリーンな佇まいの曲も増えている。骨太な演奏力と瑞々しいポップネスが同居した、この稀なるアルバムには聴きどころがたっぷりなのだ。

PROFILE

トーチャード・ソウル
ジョン・クリスチャン・ユーリック(ドラムス/ヴォーカル)、イーサン・ホワイト(キーボード)、ジェイクリフ(ベース)から成るバンド。クーリーズ・ホット・ボックスで活躍していたクリスチャンを中心に、2000年頃に活動をスタート。当初はクリスチャンの別名義的な名称だったが、2001年のシングル“I Might Do Something Wrong”がヒットした頃から現在の編成になる。DJスピナとのコラボを経て、2004年にパーパスからファースト・アルバム『Introducing』をリリース。以降もブレイズやオシュンラデといったDJの支持を得ながら、精力的なライヴ活動を続けていく。ニュー・アルバム『Did You Miss Me』(Tortured Soul/コロムビア)を12月10日に日本先行でリリース。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年12月18日 22:00

ソース: 『bounce』 305号(2008/11/25)

文/池谷 修一