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インタビュー

John Frusciante

レッド・ホット・チリ・ペッパーズの技巧派ギタリストが本隊を離れて自由を手にしたその瞬間、独創的でサイケデリックな世界への扉が開いた!


  2008年初頭に活動休止を宣言して多くのファンを驚かせたレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下RHCP)だが、それぞれのメンバーは個人の活動に専念し、充実した生活を送っているようだ。そんななかギタリストのジョン・フルシアンテが、セルフ・プロデュースによる10枚目のソロ・アルバム『The Empyrean』を完成させた。サイケデリック・ロック、アンビエント、エレクトロニック・ミュージックを横断したサウンドと、哀愁に満ちた歌が絶妙に絡み合う本作は、RHCPの過密なスケジュールに対する反動もあって生まれたもののようだ。

「RHCPはツアーが過酷だし、大きなビジネス組織が絡んでくると、締め切りに追われてクリエイティヴな気持ちの邪魔になるんだ。だからソロ・アルバムを作る時は締め切りを一切気にせず、楽しみながら自由にアイデアを探求したかった。僕はメジャーが求めるような音は作りたくなかったし、実験精神をまず第一に優先したいんだよ」。

 本作でもジョンのギター・プレイは堪能できるが、シンセの音が主体となっている曲が多く、異次元空間のような幻想的なサウンドが印象的だ。

「最近はエレクトロニック・ミュージックやテクノばかり聴いているんだ。ロックはほとんど聴いてないんだよ。コンピュータを一切使わず、アナログ・テープでレコーディングしたんだけど、古いアナログ機材を用いて最新のエレクトロニック・ミュージックのような音色のヴァリエーションや変化を作り出したかった。つまり過去の音楽を再現するのではなく、古い機材を用いて誰も聴いたことがないような音楽を生み出したかったんだよ。だからリズム・ギターを前面に出すより、キーボードやオルガンを多用したり、すべての楽器の音をエフェクトに通して加工したんだ」。

 ヴォーカリストとしての成長も著しく、パワフルな低音から繊細なファルセットまで、表現の幅が飛躍的に広がっている。

「エンジニアにヴォーカルをレコーディングしてもらうと、良いテイクを録音できたかどうかばかり気にしてしまって、フラストレーションが溜まるんだ。今回は一人でヴォーカルを録音して、とにかく楽しみながら歌うようにしたんだ。自分で録ったから粗削りなところもあったけど、僕は粗削りなほうが好きなんだよ」。

 また、RHCPのフリーが4曲でベースを演奏しているほか、本作にはスミスやモデスト・マウスのギタリストとして知られるジョニー・マーも参加している。

「ジョニーの演奏は昔から研究していたんだ。彼のハーモニーやコードの重ね方はとても斬新なんだよ。彼をフィーチャーできたのは光栄だったし、目の前で彼がギター・フレーズを作るプロセスを見ることができたのは刺激になった」。

 RHCPの活動でちょっと疲れ気味だったジョンは、新作に取り組むことで初心に戻れたようで、「いまは初めてのソロ・アルバム『Niandra Lades And Usually Just A T-Shirt』を作った頃と同じ精神状態なんだ。つまり僕は自由に音楽を作っているし、人に好かれようとか、そういうことは一切意識してないね。どんなに偉大なバンドでも、成功すればするほどダメになってしまうんだよ。クリエイティヴなことをする時に、ビジネスをモチヴェーションにしてはいけないんだ」と語る。

 ジョンはアルバムを通して内面を掘り下げ、人間の本質に迫った楽曲を提供しているが、リスナーにとってこの作品は廃れた心に潤いを与えてくれる良薬になるに違いない。

「僕の音楽は外向的なものではなく、内に向いているものなんだ。リスナーが深く聴き込んでくれたら、そこには何か新たな発見があるかもしれないね」。

▼レッド・ホット・チリ・ペッパーズの作品を一部紹介。

▼ジョン・フルシアンテの作品一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年01月15日 20:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/バルーチャ・ハシム