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インタビュー

サカナクション(4)

――(笑)。では、山口さん以外の4人に伺いますが、今回アレンジを担当してみて、個人的に苦労したところと、ステップアップできたところはありますか?

江島 ドラムだからドラムしか出来ません、っていうのはよくないなって思いましたね。バンドであるとか、ソロ・アーティストであるとか、聴く人からすればあんまり関係ないじゃないですか。すべては出てきた音勝負っていうところがあるから、ほかのパートの理解力を上げていくことが、もう一歩先にレベルアップするには必要かな。

岩寺 技術だけじゃなく?

江島 うん。作った楽曲を客観的に聴ける力だったりさ。全然音楽わかんないやつが聴いたら、この曲をどう思うんだろう?っていう、シーンを見据える力というか。そういうのを今後はもっと身に付けたい。(隣の草刈に向かって)……はい!

草刈 ベースに関してはするっと出てきた感じがあって、今回はあまり苦しくなかったんですよ。音飾選びとか、開拓しなければならない部分はまだまだありますけど、ある程度は期待に応えられたかな?って思います。逆に大変だったところは、エジと同じですね。ほかのパートを理解するっていうところ。もっちとかのデモ聴いてると、めちゃくちゃ引き算が上手だなって思うんですよ。ホントに出したいものがあるところには、ほかに誰もいないとか(笑)。それぐらいの潔さがあったほうが、自分が思い描いたものが伝わりやすいんだろうなって思ったから、そこをもうちょっと勉強したい。(隣の岩寺に向かって)……はい!

岩寺 やっぱり引き算が出来るようになったっていうのが大きなステップアップだったなと思いますね。デモを作るってことは、原曲に対してドラム、ベース、シンセ、ギターと全部のアレンジをひとりで考えるわけじゃないですか。ファーストとセカンドでは、それぞれが自分のパートに集中してやってたんですけど、やっぱり「俺が俺が」「私が私が」みたいになる。結果的にそれがサカナクションらしさにはなって、いいものが出来ていたとは思うんですけど、今回はもっと整理されたというか、出るべくして出るもの、引くべくして引くものの見極めが前よりは出来るようになった。逆に大変だったのも、そこを考えるところでしたね。(隣の岡崎を見て)はい。

岡崎 客観視に繋がると思うんですけど、シンセだけを見てシンセだけをやるんじゃなくて、もっと全体を見てやることがホントに重要だと思いました。あとメンタル面も強化したいですね。シンセをひとりで好きなように弾いてるときって、私にしか出せない変なフレーズとか出てたりすると思うんですけど、「じゃあそこを出して」って言われるとなかなか出来ないところがあるので。自分が楽しくて、自分のためだけにやってるっていう意識を捨てて……。

山口 それは捨てなくていいよ。

岡崎 ……ちゃんと音楽と向かい合えるように。たとえば隠し録音しておいて、バーッて弾いたのを後で自分で聴いたりとか。昔はよくやってたんですけど、最近ちゃんと出来てないなと思って。アルバムを作るの好きだし、シンセも好きなんで……(感無量)。

――胸いっぱいになってますね(笑)。

山口 さっき江島も言ってたけど、形にしようと思ったらどうにでもなるんですよ。それぐらいの技術、みんなあるし。だけど、それは誰に向かっているのか、サカナクションって外から見るとどういうバンドなのか、自分の好きなものはサカナクションにとってどういう意味合いを持つのか、っていうことを客観視しなければならない。そこがみんな大変だったんじゃないかな。僕は俯瞰で見てて、そう思いましたけどね。

――そうやって出来上がった『シンシロ』は、ニューウェイヴの解釈の仕方にサカナクションの個性が出ているのではないかと思うんですね。エド・バンガーのコンピを山口さんが「ヘヴィメタのダンス・リミックス・アルバム」と表現していたのもおもしろいなあと思ったし。

草刈 そういうのを聴いて、いろんなクラブ・ミュージックがそういう手法を使ってるってことがわかったので、「あ、やっちゃっていいんだ」って。それで私たちも生楽器のバンドで、加工して採用したんですよね。

山口 ライヴでどうしようか、っていうね。

草刈 そう、ライヴでどうしようか悩んでますけど(笑)、でも、どうするにしろ、新しいチャレンジになるから楽しみですね。そういうところに気付いてくれる人が増えてくれたら嬉しい。

山口 それが大衆に広がっていけばいいんですけどね。

――そうなると、きっとライヴ中に爆笑する人が増えますよ(笑)。

山口 サマーソニックのときに、“ナイトフィッシングイズグッド”で外国人が笑ってましたね。たぶん、クイーンって言ってました(笑)。

――そういう人たちの楽しみ方が増える(笑)。

山口 たとえば“Ame(B)”はニューウェイヴの新しい解釈としても、サカナクションのアイデンティティーとしても成立する曲だと思うんで、ああいう曲からひとつの枠組みが広がっていけばそこがシーンになっていくし、僕たちのやりやすさになっていくんじゃないかと思う。それがどう受け取められるかがわからないぶん、いまは楽しみですね。

――ニューウェイヴ・リヴァイヴァルとかニューレイヴとかとはまた違う解釈かなと。ダンス・ミュージックの享楽性と、ダイレクトに届く言葉の両方があって。

山口 ありがとうございます。

――私はそう思うんですが、みなさんとしてはどうですか? このアルバムは。

山口 まだ総括できてない。それって俺だけ?

草刈 一郎くんは録ってたところにあまりいられなかったし、一番最後に、一番楽しめるんじゃないかな、って気がするけど。

山口 今回は、結局はポピュラリティーの追求だったんですよ。サカナクションのなかではどういうポピュラリティーが通用するのか。振り返ると、僕はそこだけに観点を置いてた気がするんですよね。ただ、曲単位では総括できてますけど、アルバムとしてはまだ総括できてない。たとえば、どういう音楽が好きな人がこの曲を好きなのかとか、誰を好きな人がこのアルバムをいいって言うのか、サカナクションを好きな人がこのアルバムを聴いてどう思うのか、全然サカナクションを知らない人がこのアルバムから入ってどう思うのか、とか、ファーストやセカンドのときは大体想像できたけど、今回はできない。出てからわかる気がする。作品としては「来た!」って感じですけど、いままで僕が執着してたシーンにとってはどうなのか、っていうところが総括できてない。

草刈 やり切れた感はありますけどね。

山口 ま、制作環境が飛躍的によくなったっていうこともあるし、確かにやり切った感はあるよね。キャパシティーが広がった感じはある。アナログ放送がデジタル放送になったわけじゃないけど(笑)、皺まで見えるぐらいクリアになったというか。ただ、ファースト、セカンドのちょっとザラッとしたニュアンスが俺らっぽさだって受け取ってる人もいると思うから、それがいいのか悪いのか、まだよくわからない。いい音質でいい音楽を作るってところに基準があったことはあったけど、それが聴く人にとってはどうなのか。だから草刈が言ったみたいに、このアルバムがどういうアルバムなのか、僕は一番最後にわかる気がする。それを予測する仕事がマネージメントだったりレーベルだったりするんですけど、その人たちのテンションがあがってるから、たぶんいいんだろうなって思いますけどね(笑)。

――ただ、サカナクションとしてのポピュラリティーは掴めたわけですよね?

山口 第一章ですけどね。

草刈 うん。

山口 だから、これから第二期サカナクションがスタートですね。サカナクションは、絶対もっと良くなるんですよ。『シンシロ』は、それを感じてもらえるアルバムなんじゃないかな。「これが最高傑作でしょ」っていうんじゃなくて、毎回「まだ(進化する余裕が)ある」って思えるような感じで、変化していけたらいいなって思いますね。伸びしろを自分で感じながらやっていけるのが、いちミュージシャンとして一番幸せなことですからね。

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掲載: 2009年01月22日 18:00

更新: 2009年01月22日 19:20

文/土田 真弓