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インタビュー

サカナクション


  非常に明確な音楽のプランと、それを支える思想を持つ知的なバンドである。それでいて理屈抜きの本能的な快楽をも兼ね備えているのだから、ファースト・インパクトの鮮烈さは比類がない――サカナクション。独自のカラーを持つ音楽シーンが存在する北海道で生まれ育ち、良質なエレクトロニック・ミュージックとバンド・サウンド、ポップなメロディーとを融合させたスタイルで大きな注目を集める、次世代ロックの指針となり得る存在だ。

「歌を歌って言葉とメロディーを伝えることは日本の文化だと思うので、そこは外さない。さらに、もっと歌を聴いてもらうためのアプローチとしてクラブ・ミュージックは最適だと思ったんですね。北海道には質の高いクラブが多くて、そこで僕が聴いてきた本質的なエレクトロニック・ミュージックと、いまのJ-Popと言われているようなエンターテイメント・ミュージックの、どっちの良さも持った音楽がいつか主流になっていく時代が来るんじゃないか?と思っていたので、そこをきちんとパッケージできるバンドをやりたかったんです」(山口一郎:以下同)。

 すべての始まりは、バンドの中心人物である山口一郎に集約される。父の影響で、友部正人などのフォークやビートルズをはじめとする洋楽ロックを子守歌に育ち、吉本隆明の評論やアルチュール・ランボー、石原吉郎などの詩を読み耽った少年時代から作詞作曲を開始。「音楽は思想や社会を歌い、時代を切り取るもの」という信念にいまも揺るぎはなく、むしろ強固になっているようだ。その最新の証明が、通算3枚目のニュー・アルバム『シンシロ』である。

「ファーストとセカンドの頃は、僕がすべて指示しながらやっていたんですけど、今回はメンバー全員にアレンジを振り分けたんです。それぞれのやりたいこととスキルを確認したかったし、そういう時期に来ていると思ったので。そこで、例えばベースの草刈(愛美)がギターのアレンジをすると、〈こんなのあり得ない! でもおもしろい〉とか〈自分ならもっとこうする〉とか新しい反応が出てきた。いまのメンバーは僕がやりたいことを膨らませてくれるし、そういうメンバーに巡り会えたのはすごく大きいと思っています」。

 複雑なコーラス・ワークと大胆なプログラミングとを融合させた冒頭曲“Ame(B)”の鮮烈さ。そして先行シングル“セントレイ”の眩い輝きを放つ4つ打ちビート、ディストーション・ギターの音色と切なくキャッチーなメロディーとが描き出す空間の広がり。またファンキーなベースラインがうねるアコースティック・タッチな“黄色い車”の躍動感など、1曲ごとのアイデアの豊かさにまず目を見張る。さらには山口が渾身のメッセージを込めて書き下ろした歌詞が静かに深く心に沁み入るのだ。

「モラトリアムというのは誰にでもあると思うんですけど、僕はその時代がすごく長かったんです。その時にポジティヴな精神状態よりも、モラトリアムのなかのネガティヴな精神状態から出てくる答えのほうに納得できるということがたくさんあったんですよ。そういうネガティヴな精神状態にある人に〈それでもいいんだよ〉と言っている、誰かの背中を押すような曲が今回は多いと思います。いまの時代、変わることを恐れる人が多いですよね。でも僕は、変わることはすごく良いことだと思っていて、ダメだったら元に戻ればいいし、良ければもっと変わり続ければいい。変化を恐れないことをはっきり言いたかったんです。決して、オバマ氏が〈CHANGE〉と言っているのに便乗したわけではないですよ(笑)」。

〈シンシロ〉とは〈新しい白〉──これからどんどん色を塗っていきたいという意味だという。「3枚目にして、やっとバンドが始まった気がします」と語るサカナクションがめざす未来は、眩しく輝いている。

PROFILE

サカナクション
山口一郎(ヴォーカル/ギター)、岩寺基晴(ギター)、草刈愛美(ベース)、岡崎英美(キーボード)、江島啓一(ドラムス)から成る5人組。高校の同級生だった山口と岩寺によって2005年に北海道で結成され、2006年の春に現在の編成となる。道内を中心にライヴ活動を続けるなか、2006年の〈RISING SUN〉に公募選出枠〈RISING★STAR〉で初出演し、地元ラジオ局などを中心に話題となる。翌年5月にファースト・アルバム『GO TO THE FUTURE』、2008年1月にセカンド・アルバム『NIGHT FISHING』を立て続けに発表しながら全国的に知名度を上げ、その夏には8本のフェスに出演。1月21日にサード・アルバム『シンシロ』(ビクター)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年02月19日 20:00

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/宮本 英夫