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インタビュー

怒髪天(2)

テーマがはっきり決まっていたぶん、濃厚なアルバムになった

──そんな熱い気持ちのもと、今回、ニュー・アルバム『プロレタリアン・ラリアット』の制作に臨まれたわけですね。

増子  そうだね。テーマがはっきり決まっていたぶん、今回のアルバムは、すごく濃厚なものになったと思う。本当は9曲ぐらい入れようかと思っていたけど、7曲並べたときに、濃すぎて、もういいだろうという話になって。トゥー・マッチになるから、ちょうどいいところでやめておこうって。これも勇気なんだよね。説明過剰にならないというか。結果的に、すごくいいアルバムができたと思う。

──出来上がった作品をお聴きになって、一番満足しているところは?

増子 自分たちとしてすごく達成感があるのは、ちゃんと笑えるというか、自分の辛さを笑い飛ばしていけるような作品になってるっていうところ。怒鳴って敵を批判するのがこれまでのパンク・ロックのやり方だったんだけど、いまはもう、敵自体が崩壊しちゃっているような感じだから。そうすると己に向かっていくしかない。で、辛い状況をを乗り超えていくために何が必要なのかといったら、それってやっぱりユーモアだと思うんだよね。〈俺、こんなに頑張ってるんだけどなぁ〉って自虐的に笑える感じ。〈それでもやるか!〉みたいな。辛い状況を笑い飛ばせるような感じが、いまは聴いてくれる人にとって、いちばん力になるんじゃないかなと思ったんだ。

――こんな時代だからこそ、あえてユーモアが必要だという。

増子 そう。辛いときこそ、笑いが必要なんだよ。

――景気が悪化するとお笑いブームが来るっていうのも、やっぱりそういうことなんですかね。

増子 笑わないとやってらんないというかさ。そういうことだと思うよ。だいたい普段の生活からしてシリアスなのに、辛いことを辛く歌われても、ごちそうさまって感じだよね。

――たしかに新聞読んでもテレビを観てもシリアスなニュースばかりだし。

増子 そう。全部ブルースだから。それこそブルースの時代には痛みを自覚することによって頑張れたり強くなれたりしたと思うんだけど、いまはもう、痛みを自覚すること自体が辛すぎるから。いまはもう、ブルースの時代じゃないし、そういう意味でもユーモアが必要なんだよ。過酷な状況ほど陽気に伝えなきゃいけないと思うから。

――今回のアルバムって、メッセージの部分では1本の太い筋がバシッと通っているんだけど、それを伝えるアプローチがすごく多岐に渡っていますよね。だから一本調子にならないというか。

増子 音楽的に相当ヴァリエーションがあるからね。今回はサウンドで色を揃えるんじゃなくて、歌詞で統一感を持たせたんだよ。

――テーマが明確だからこそ、いろんなサウンドに取り組んでいても作品全体の方向性がブレないという。

増子 そうそう。サウンドに関していえば、基本は自分たちがやってみたいことを楽しみながらやってみようという感じで。たとえば1曲目の“GREAT NUMBER”は完全に和の要素がモチーフになってるわけだけど、あの曲は、日本の民謡を採り入れたロックがカッコ悪いと言われることに対してのアンチテーゼだからね。たとえばポーグスのサウンドはアイリッシュ民謡とパンクを合わせたもので、それが世界的に評価されているのに、なんで日本のロック・バンドが同じことをやるとカッコ悪く思われちゃうんだろうって。

――往々にして、どこかアカデミックというか、頭でっかちな感じになっちゃいますよね。

増子 でも、俺たちがやると絶対そういうふうにならない。急に和太鼓を入れたり、三味線を入れたりしなくていいんであって、純粋に2009年のいまを生きてる自分たちのなかから出てくる和のメロディーをそのまま出していけばいいと思うんだ。たぶん外国人にこの曲を聴かせたら、みんな「日本のバンドの曲だ」って言うと思うよ。

──間違いないでしょうね。

増子 自分たちがいま、持っているものを十分誇っていいんだよって。変に昔っぽい和の要素を採り入れなくても、日本的な雰囲気は充分出せると思う。

──他にもポルカやレゲエやサンバとか、いろんな音楽の要素を採り入れた楽曲が収録されていますが、どの曲も頭でっかちな実験精神とは無縁な感じですよね。

増子 どれも無理やりくっつけてるわけじゃないし、自分たちがちゃんと消化できることを前提にやってるから。あくまでも伝えたいテーマを中心に考えてね。たぶん俺たちがやったことは間違ってないだろうし、たとえ間違っていたとしても構わないけどね。これが俺たちのやりたいことだから。

──響く人にはガツンと響くでしょうし。

増子 そうね。だいたい俺たちはカッコいいアルバムを作ろうだとか、そんなこと少しも思ってないから。単に「いい曲を作って、いいアルバムにしたい」って本気で思ってるだけだし。

──でも、いまはリスナーもシビアだから、みんな、〈いい感じの音楽〉じゃなくて、〈いい音楽〉を求めてると思うんですよ。

増子 うん。ここ最近、やっとそういう風潮になりつつあるよね。それは俺も感じる。チャートの上の方を見ると相変わらず、「なんだコレ?」っていうのばっかりだけど。でも、俺たちのアルバムが毎回、オリコン1位を獲得するような世の中も、またどうかと思うよ(笑)。猛烈に勢いのある奴ばかりになって(笑)。

──国民全員、どおくまんが描く漫画の主人公みたいな(笑)。どんだけ濃厚民族なんだっていう(笑)。

増子 そんな国、間違いなく国際社会で孤立するよ(笑)。

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掲載: 2009年04月30日 17:00

更新: 2009年04月30日 20:58

文/望月 哲