GRIZZLY BEAR
今年に入ってからアニマル・コレクティヴやアクロン/ファミリーが次々と素晴らしい新作をリリースするなど、相変わらず活気づいているブルックリン・シーン。彼らと並んで注目を集めてきたのが、エド・ドロステを中心とする4人組、グリズリー・ベアだ。独自の美意識とサイケデリアを潜ませた彼らの歌は中毒性が高く、同業者にもファンは多い。レディオヘッドがツアーの前座に指名したり、ファイストやロビン・ペックノールド(フリート・フォクシーズ)がリスペクトを表明したりと周囲がザワつくなか、満を持して3年ぶりのニュー・アルバム『Veckatimest』が完成となった。
「新作では自分のアイデアや、やりたいと思ったことをどんどん試してみたんだ。例えば合唱団やストリングスに入ってもらったり、自分たちの周りにある自然音、海の音とか暖炉の音とかもサンプリングしてみたりね。それは前もって計画していたことじゃないけど、自然の流れで思いついたことを臆せずにやってみた。今回は多面的なアルバムを作りたかったし、ダイナミックなサウンドをめざしていたからね」(エド:以下同)。
もともとエドはクラシック音楽が大好きで、今年2月にはブルックリン・フィルハーモニーと共演したばかり。今回ストリングスやコーラスを導入するにあたって、ビョークやアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの作品に参加してきたニコ・ミューリーがサポートしているのも見逃せない。とりわけビーチ・ハウスのヴィクトリア・ルグランや、ブルックリン・ユース・コーラスという10代の女の子たちによる合唱団など、女声コーラスの参加が大きなアクセントになっている。
「自分たちでは作り出せない音を外部から採り入れたいと思ったんだ。それに、僕らにとってハーモニーは気に入っている要素だからね。特にブルックリン・ユース・コーラスが参加した“Cheerleader”では、しっかりとしたコーラス・パートを入れることができた。彼女たちが曲にフレッシュなエネルギーを与えてくれたんだ」。
そんなふうに、これまでになくさまざまなアーティストが参加した本作。エドによると今回のアルバムのカギとなったのは〈コラボレート〉だそう。
「僕らはアルバムのためにテーマやコンセプトを作ったりしないんだ。自然に生まれてくるものを大切にしている。でも新作を振り返ってみると、どうやったらメンバー同士で快適にコラボレートができるのか、その方法や技術を学んだアルバムだった。その結果、これまででいちばん中身の濃い作品になっていると思うよ」。
思えばエドのソロ・ユニットとしてスタートしたグリズリー・ベアが、デパートメント・オブ・イーグルとしても活動するダニエル・ロッセンを含む4人組になったのは前作『Yellow House』からだった。「ひとりだと同じアイデアを繰り返したりすることもあったけど、4人だとそれぞれに意見を交換し合える。その変化は大きくて、サウンドもずいぶん進化したよ」と語るエド。だからこそ『Veckatimest』は、バンドとしてのグリズリー・ベアの成熟を感じさせる仕上がりになったのだろう。収録曲“Dory”に対するコメントが、そんなアルバムの雰囲気を象徴している。
「いろいろなアイデアがパズルのように組み立てられて出来ているんだ。プールの奥深くに泳いでいくような、どこかで迷っているような雰囲気。イメージとしては白昼夢に溺れるみたいな感覚かな」。
迷宮めいたアレンジと官能的な美しさを持ったメロディー。グリズリー・ベアを聴くということは、グリズリー・ベアに溺れるということでもあるのだ。
PROFILE
グリズリー・ベア
エド・ドロステ(ギター/ヴォーカル)、ダニエル・ロッセン(ギター)、クリス・テイラー(ベース/ヴォーカル)、クリストファー・ベア(ドラムス/ヴォーカル)から成る、NYはブルックリンを拠点に活動している4人組。2003年にエドのソロ・プロジェクトとしてスタートし、2004年にワープからファースト・アルバム『Horn Of Plenty』をリリース。2007年に現在の編成となり、セカンド・アルバム『Yellow House』を発表。その後、デンテルのアルバム参加やファイスト“My Moon My Man”のリミックスも話題を呼び、ポール・サイモンやレディオヘッドともライヴ共演を果たす。さらなる注目を集めるなか、ニュー・アルバム『Veckatimest』(Warp/BEAT)をリリースしたばかり。