インタビュー

フジファブリック

素の姿をさらけ出した志村正彦、28歳の肖像――バンド存続の危機を乗り越え、また一皮剥けた強さを備えた新作が完成!

  取材ルームの空気がピンと張り詰めるほど、志村正彦(ヴォーカル/ギター:発言以下同)の緊張感溢れる表情と言葉がこの作品の成り立ちを物語る。フジファブリックの4枚目となるフル・アルバム『CHRONICLE』は、全作詞作曲とアレンジを彼が手掛けた、これまでの作品とはまったく異なる音の凄みと曲調の広がりを得た傑作だ。

 「『TEENAGER』というアルバムを昨年1月にリリースして、5月31日に僕の中学時代からの夢だった(故郷の)山梨県富士吉田市富士五湖文化センターでライヴをやることができて、そこで夢を叶えてしまったんです。今後どうしたらいいんだ?ということを6~7月にずっと悩んでいて、その後、8月中旬に喉のポリープの手術をしました。僕は人から〈曲を作れ〉と言われると作らないタイプなんですけど、手術に失敗したら声が出なくなるかもしれないという話を聞いて、自発的に2~3週間でアルバム収録曲のほとんどを書いたんです。明日はどうなるかわからないと思った末に、後悔したくないし人のせいにしたくないというのがあったので、全作詞作曲とアレンジを僕が考えてやりました。28歳になったという意識も強くありましたし、28歳のミュージシャンがいろいろ考えている、切迫感が出ているアルバムになったと思います」。

 志村が掲げた〈パワー・ポップ〉をキーワードに、今年の1~2月にかけてバンドは約3週間のストックホルム録音を敢行した。ドラムスのいないフジファブリックが今回サポートに選んだのは、スウェーデン人ドラマーのリカルド・フックスフルックス・ネッテルマルム。

 「18歳の頃はクラシックやジャズや60~70年代の音楽を聴いていて、それに感化されて曲を作っていたんですけど、年齢と共に聴く音楽が若返って、フジファブリックの音楽も若返ってきてるんですよね。年を重ねたからこそ、こういう音楽ができたのかもしれないです。USインディーと呼ばれる一派の音楽を聴いて、感化されて、パワー・ポップを作りたくなったんです。特にファウンテインズ・オブ・ウェインの“Mexican Wine”という曲にはとても影響を受けました。スウェーデンに行ったのは、リカルドというスーパー・ドラマーといっしょにやりたかったからといっても過言ではないですね。彼は僕のデモテープのドラムのフレーズを大切にして、なおかつそれにパワーを加えてくれました」。

 2本のギターの痛快なドライヴ感を前面に、エキセントリックなキーボードのフレーズは控えめに、パワーとスピードを強調したサウンドは志村の言うように非常に若々しく、瑞々しい。歌詞もとても直情的で、〈全力で走れ〉〈速度あげたら止まんない!〉と煽りまくるものと、〈僕の心は臆病だな〉〈日々悩むのであります〉などと内省に沈むものとがあっけらかんと同居している。

 「昔のフジファブリックは、歌詞を見られて頭が悪いと思われたくないというのがとてもあって。文学的な感じに見られたいというのがあったんですけど、今回はまったく意識せずに思ったことを完全ノンフィクションで歌ったというそれだけです。怖いとか弱いとか臆病だとか、そういう歌詞は後ろ向きかもしれないですけど、それはネガティヴではなくて誰しも持っているものだと思うんですね。誰しも持っている後ろ向きなことを惜しまずに出した、という気持ちはあります」。

 最後にひとつ、確かめたいことがあった。前作のインタヴューの際に彼は、これまでの作品のすべてに〈vs.精神〉があると言い、ファースト・フル・アルバムは〈自分vs.東京〉、2作目は〈自分vs.日本のロック・シーン〉、そして3作目は〈いまの自分vs.ティーンエイジャーの自分〉と語ってくれた。では、このアルバムはどうなんだろう?

 「今回は〈音楽家の自分vs.自分〉という感じです。自分はちゃんと立派なミュージシャンになれたのか?ということとの闘いです。その答えはまだ出ていないですね。これから出たらいいなと思います」。

▼フジファブリックが参加した作品を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年05月28日 17:00

ソース: 『bounce』 310号(2009/5/25)

文/宮本英夫

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