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インタビュー

TYGA


  フォール・アウト・ボーイ(以下FOB)のピート・ウェンツや、ジム・クラス・ヒーローズ(以下GCH)のトラヴィス・マッコイがバックアップし、リル・ウェインが〈こいつは次世代のスターになるぜ!〉と太鼓判を押す男、と聞くだけで、何だか大物の予感がしてしまうが、当の本人はいたってイマドキな19歳。しかし耳ざといリスナーの方なら、彼が次世代のスターとなりうるポテンシャルを備えていることをとっくにご存知だろう。程良いポップさを兼ね備えたクロスオーヴァーなサウンドと、若者らしいエネルギッシュなフロウでこちらを魅了する新世代ラッパー、タイガ。満を持しての日本デビューである。

 コンプトン出身ながらNWAなどのギャングスタ・ラップはほとんど聴かず、「ノトーリアスBIGやジェイ・Z、カニエ・ウェストを聴いていた」という彼。これまたいたってイマドキなヘッズだったわけだが、しかしタイガが他のヘッズと大きく違っていたのは、チャンスを確実にものにする力を持っていたという点だ。12歳の頃からラップを始め、ストリートでミックステープを配っていた彼は、ある時LAのメルローズ・ストリートで偶然GCHのフロントマン、トラヴィス・マッコイと出会うこととなる。

 「渡したテープを彼が気に入ってくれて、それからGCHのツアーに俺を呼んでくれたり、彼らとレコードをいっしょに作るようになったんだ。LAって素晴らしいチャンスがたくさん転がってる街だけど、みんなそのチャンスに対して何もしないで過ごしている。だから才能のある人も結局は内輪の盛り上がりだけで終わってしまうんだよ。俺は内輪だけで終わりたくなかったし、トラヴィスと出会えたことで実際に大きく羽ばたけたんだ」。

 トラヴィスを介してピート・ウェンツとも知り合ったタイガは、FOB“This Ain't A Scene, It's An Arms Race(Remix)”への参加などを経て、ピートが主宰するレーベル=ディケイダンスから昨年6月にアルバム『No Introduction』でデビューを果たす。そしてその約1年後にようやく日本デビューに漕ぎ着けたというわけだ。ストリートでミックステープを配っていたいちヒップホップ少年の、まさにアメリカン・ドリームともいうべきストーリーだが、しかしこれらすべて、彼の才能があってこそというのは言うまでもないだろう。

 〈10代でまだお酒が飲めないから、代わりにココナッツ・ジュースを飲むんだ〉というリリックがユニークな先行シングル“Coconut Juice”や、リル・ウェインをフィーチャーした裏のリード曲ともいえる日本盤ボーナス・トラック“I Am”など、ハードなヒップホップ・チューンというよりは、ポップで耳馴染みの良い楽曲が多い本作。また、FOBのパトリック・スタンプや、GCHのプロデュースでもお馴染みのサム&スラッゴらがプロデュースしていることもあって、他のメインストリーム・ヒップホップとは一線を画すロッキッシュなサウンドが多いのも特徴だ。

 「けど、ロックだけにこだわるつもりはないよ。俺の周りにいるロックスターの力を借りてロックとヒップホップを融合したフレッシュなものを作ったけど、今回たまたまそういう内容になっただけであって、次はまったく違うものになると思うしね」。

 ビッグスターに囲まれたいまの環境について、「自分のなかにそういう環境を引き寄せる何かがあったんだろうし、なるべくしてこういうふうになったんじゃないかな」と話すタイガ。なかなかのビッグマウスだが、いまの環境に安住することなく逞しく成長し、作品を出すごとにまた新たな姿を見せてくれることを期待したい。「将来はジェイ・Zとカニエ・ウェストの間に立つようなアーティストになりたいんだ!」なんて無邪気に話す彼を見ていると、やっぱりその可能性に賭けてみたくなるのだ。

PROFILE

タイガ
カリフォルニアはコンプトン出身のラッパー。幼い頃からマイクを握り、MCバトルや楽曲制作を通じて地元での評判を高めていく。トラヴィス・マッコイに渡したデモをきっかけに、彼の率いるジム・クラス・ヒーローズにライヴ・サポートなどで関わるようになる。2007年にミックステープ『Young On Probation』をリリース。並行してフォール・アウト・ボーイやリル・ウェイン、プレイン・ホワイトT'sらの楽曲に客演し、脚光を浴びる。2008年3月にディケイダンスから初のオフィシャル・シングル“Coconut Juice”を発表し、6月にはファースト・アルバム『No Introduction』(Decaydance/Fueled By Ramen/ソニー)をリリース。6月3日にその日本盤が登場した。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年06月03日 17:00

更新: 2009年06月03日 17:20

ソース: 『bounce』 310号(2009/5/25)

文/川口 真紀