DANIEL MERRIWEATHER
路上の不良少年がマイクを握った時、溢れ出る感情が運命を動かしはじめた……マーク・ロンソンの秘蔵っ子が待望のアルバムで綴る、〈愛と闘い〉の真実とは?
今年の要注目レーベルといえば、あのマーク・ロンソンが主宰するオールアイドゥ(Allido)である。UKの変化球ロック・バンドのランブルストリップスからシカゴのMCであるライムフェストまで、ジャンル/国籍に関わらずマークの耳を捉えた個性派をラインナップしているが、そのなかから早速2曲のシングルを全英TOP10に放り込み、続いてファースト・アルバム『Love & War』も全英2位を獲得するなど、快調に飛ばしているのがダニエル・メリウェザー。オーストラリア出身の新星シンガー・ソングライターだ。もっとも、彼の名前とメランコリックなエッジを含んだ美声は、英国では以前から浸透済み。19歳の時に作ったデモをマークが耳にしたことからふたりは2003年頃よりコラボを開始し、マークのソロ名義の大ヒット“Stop Me”(スミスのカヴァー)にフィーチャーされてからというもの、ソロ・デビューに大きな期待が寄せられていた。「かといって〈実力を証明しなければ〉というプレッシャーに苦しむよりも、やっと自分のアルバムを発表できることに心から興奮していたよ」とダニエルは語る。
そんな彼が歌に目覚めたのは10歳の時。エルヴィス・プレスリーの歌とボーイズIIメンのアルバム『Cooleyhighharmony』を出発点に、以後ヒップホップとR&Bを聴き漁り、ソウルの古典を掘り下げる一方でオルタナ・ロックにもハマって、ジャンルレスな志向を培ったという。
「僕が惹かれる音楽の共通項は、ソウルフルで感情表現に長けたシンガーだと思う。例えばオーティス・レディングの歌を聴くと、声を通して音符と言葉のひとつひとつがリアルに感じられて、彼が歌うことすべてを心から信じられる。そういうシンガーたちを僕は崇拝し、目標にしてきた。ジャンルとしてソウルか否かは関係ないんだ」。
だからこそ、アルバムに着手した当初はR&B畑の大物プロデューサー複数名から曲提供を受けたものの、完成間近になって方向性に疑問を覚えて白紙撤回。プロダクションをほぼ全面的にマークの手に委ねて、ゼロから作り直すことに──。そう、ジャンルに限定されず、でもプロデューサーを絞ることで一貫性を与えたというわけだ。
「ひとりのプロデューサーが全編を手掛けるなんて珍しいけど、飾りを取っ払って、シンプルでピュアなアルバムにしたくなって、マークに相談したんだよ。そして20年後も同じ愛情を持って聴ける作品を作るべく、ジャンルの概念を捨てて良い曲を書くことに専念し、それらを有能なミュージシャンたちに演奏してもらうという基本方針を定めたのさ。最近ありがちな注意欠陥障害気味の作品にはしたくなかったし、究極的には友達と作るほうが絶対に楽しいからね(笑)」。
こうして完成したのはなるほど、フォークとも呼べるほどにトラッドな曲を生演奏にこだわって鳴らし、思いの丈を声に託した新種のブルーアイド・ソウル。マークが幼馴染みのショーン・レノンからダップ・キングスまでみずからの人脈をフル活用して、ダニエルに最高級の舞台を提供した形だ。作品は若さゆえのひたむきさで溢れ、彼自身も話していて実に気持ちの良い純粋な若者なのだが、高校時代は筋金入りの不良少年で「何度も警察の厄介になった」と苦笑する。そんな過去をそれとなく示唆するのは、ダークサイドを自分のなかに意識して綴られた詞なのかもしれない。〈愛〉と〈闘い〉という相反する言葉を並べたタイトルも、そういう意味で象徴的と言えるだろう。
「対極にあって反発し合う力がひとつになった状態とか、対極にあるものが衝突した時に起きる摩擦に興味があって、『Love & War』は、そんな人間の行動に関する僕の考察を総括したタイトルなんだよ。どの曲も人間観察に基づいていて、善と悪は共存しなければならないという事実と向き合っているのさ。僕は人間のダークサイドを非常に重要なものだと思っているからね」。
▼ダニエル・メリウェザーの参加作品を一部紹介
▼『Love & War』に参加したアーティストの作品
ワレイのストリート・アルバム『100 Miles & Running』(Allido)