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インタビュー

LITTLE BOOTS


  最初にリトル・ブーツのライヴ映像を観た時の印象は、いまでも頭にしっかりと焼き付いている。英BBCのTVショウだったのだが、アル・グリーンやキラーズといったアーティストと肩を並べて、一人で登場した彼女。まだアルバムすら発表していない新人であるにも関わらず、152cmという小柄な身体で、左手でピアノを弾き、右手ではヤマハ製のテノリオンを使いこなしてクールにパフォーマンスする姿に、未曾有の音楽的才能を感じたのだ。実際BBCでは今年の注目アーティストNo.1に選ばれるなど、すでに音楽だけでなくエンターテイメント業界全体がその才能を高く評価している。

「ブライテスト・ホープに選ばれて、本当に光栄だわ! デビュー前にして素晴らしいチャンスを得られたって感じ。ただ、すでにパパラッチが私を追いかけているのよ。パーティーに出かけた時に撮影されるのは仕方ないけど、電車に乗っている時だって追いかけられるんだもん。いまじゃノーメイクでスーパーにシリアルすら買いに行けないほど。本当にウンザリしてるわ」。

 リトル・ブーツことヴィクトリア・ヘスケスはイギリス北部にあるビーチ・リゾートのブラックプール出身、現在25歳のシンガー・ソングライターだ。5歳の頃からピアノを弾きはじめ、やがて大学に進学するとダンス・ポップ・ユニットのデッド・ディスコを結成して本格的な音楽活動を開始する……も、解散。昨年動画サイトに自身のパフォーマンス映像を投稿したところ、たちまち話題を呼んでソロ・デビューに至ったのだ。そんな彼女の作る楽曲の特徴は、エレクトロニックでポップなサウンド。テノリオンの奏でるレトロ・フューチャーな音色がキッチュな世界観を紡ぎ出していて印象的だ。

「テノリオンとの出会いはレコーディング・スタジオに置いてあったのがきっかけ。耳で聴こえる音が光となって目にも伝わってくるようで、とっても魅力的よね。演奏を華やかなものにしてくれるわ」。

 デビュー・アルバムである『Hands』は、彼女の華やかな部分を抽出したような内容だ。リリー・アレンやカイリー・ミノーグも手掛けたグレッグ・カースティン(バード・アンド・ザ・ビー)に、ホット・チップのジョー・ゴダードなどをプロデューサーに迎えて制作された。「最近クラブでDJもやるようになったの。そこではイタロ・ディスコが全盛で、自然とあのビートに影響を受けているのかもしれない」と語っているが、アルバムにも80年代のイタロ・ハウスみたいなキラキラとした非現実的ムードが充満している。しかし歌詞に目を向けると、おせっかいな友達にうんざりしている気分を表現したものとか、失恋の傷を癒す処方箋を探す曲など、世間の女の子から共感を集めそうなものが目立つ。その現実と非現実のコントラストがおもしろいのだが……。

「でもね、歌詞はストレートにリアルを追求するのでなく、例えば“Mathematics”という曲では数学用語を用いて失恋を語っていたりとか、さまざまな角度から愛や人生を捉えたものが多いと思う。自分の体験をそのまま垂れ流しで表現してしまうのは、単なるエゴイスト。みんなが共感したり、なるほど!って思ってもらえる視点で言葉を綴りたいの」。

 また彼女が大ファンだというヒューマン・リーグのフィリップ・オーキーとデュエットした“Symmetry”は、セルジュ・ゲンスブール&ジェーン・バーキン的なアンニュイさを漂わせていて、なかなかの聴き応えだ。

「私って、イマドキなエレクトロ・ポップを奏でているアーティストと思われがちなんだけど、このアルバムではそうでない部分もあるわ。時代によって廃れることのない音楽を表現できたと思ってる。今後も多くの人の心に届く音楽を追求していきたいわね」。              

PROFILE/リトル・ブーツ

UKはブラックプール出身、25歳のシンガー・ソングライター。5歳の頃からピアノを習い、13歳で曲作りを始める。リーズ大学在学中の2005年にクラスメイト3人でデッド・ディスコを結成。2006年にハイ・ヴォルテージからファースト・シングル“The Treatment”を発表。2008年のユニット解散後は、本格的にソロ活動を開始。“Stuck On Repeat”“Meddle”など立て続けにシングルをリリースし、同年末に発表された〈BBC Sound Of 2009〉で1位に選ばれる。今年3月に先行シングル“New In Town”がUKチャート3位を記録するなどさらなる注目を集めるなか、6月9日にファースト・アルバム『Hand』(679/Atlantic UK/ワーナー)を発表。7月8日にその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年07月08日 18:00

ソース: 『bounce』 311号(2009/6/25)

文/松永 尚久