インタビュー

World Sketch

ビューティフル、メロディアス、つまりワンダフル! 札幌から世界を睨んで活動する職人コンビが描き出した、ハウス本来の姿とは?

  「ハウスって、昔はもっと〈何でもあり〉だった気がするんですよ」――堀内基弘がそう語ると、相方の守屋友晴も微笑みながら頷く。このたび初のアルバム『Wonderful』をリリースしたふたり、World Sketchが開示するサウンドは、いわゆる4つ打ちを基軸にしたもの。すなわちハウス系に分類されるのだろうが、その楽曲に耳を澄ませれば、両者の〈何でもあり〉な音楽的バックグラウンドが見え隠れする。

 「ビートルズが好きなんですよ。あとパンクに夢中になったり、ヒップホップにのめり込んだ時期もありました。守屋君も普通に最近のポップスとかR&Bが好きで、かなりの雑食なんですね。まあ、お互いが接してきたジャンルは正反対かもしれませんけど」(堀内)。

 しかし、ある共通点が彼らを結び付ける。

 「僕も守屋君も〈クラブの現場が好き〉っていう共通点がありますけど、互いにバンド経験も長かったので、プレイヤーとして理解し合える部分も大きかった」(堀内)。

 これはWorld Sketchの大きな強みであろう。とりわけ、鍵盤を熟知した守屋の役割は大きい。

 「このアルバムを作るうえで、もっとも重視したのはメロディーです。ダンス・ミュージックだからビートも重要ですけど、まず部屋で小さな音で聴いても楽しめるものにしたかったんです。だから楽器やヴォーカルの音色から歌詞の内容に至るまで徹底的にこだわって、美しい旋律を損なわないように心がけました」(守屋)。

 一方でふたりはダンス・ミュージックとしての〈機能性〉にもしっかりと配慮している。つまり、ビートの構築から楽曲の展開に至るまで、周到に計算されているのだ。

 「ふたりとも音楽業界で裏方としての仕事を長い間やってきたし、クラブの現場もいろいろ見てきたので〈どうすればダンスフロアで盛り上がるのか?〉ってこともやっぱり考えるんです。例えば、ここでブレイクを入れて何小節目にドカーンと行けば盛り上がるだろう、とかね。4つ打ちの曲を作るときは、わりと細かくオーディエンスの反応をシミュレーションしながら組み立てます」(堀内)。

 こうした近代的ハウスの〈様式美〉を踏襲したうえで、冒頭の台詞に象徴されるような、ハウス黎明期の〈何でもあり感〉を絶妙にブレンドするのが、彼らの作風であり最大の美点なのである。偏狭なハウス原理主義でもなく、安易な懐古趣味でもない、バランスとミクスチャー感覚に長けた彼らの描写(=スケッチ)は、これからも続く。

▼World Sketchの制作曲を含む作品を一部紹介。

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掲載: 2009年07月22日 18:00

ソース: 『bounce』 312号(2009/7/25)

文/楠元 伸哉