インタビュー

Keison

気のみ気のまま旅を続ける彼に寄り添う、自然に育まれた生活のメロディー


  サーフボードとギターを持って、旅をしながら音楽を奏でる――デビューしてからずっと、Keisonはそうやって音楽と向き合ってきた。日本のサーフ・ミュージックを代表するシンガー・ソングライターとして注目を集めてきた彼にとって、音楽は生活の一部であり、ボードを抱えようがギターを持とうが、自然と戯れながら波(グルーヴ)を捉えるのは同じこと。そんなKeisonのマイペースぶりを伝える3年ぶりのオリジナル・アルバム『EGO』が届けられた。

 最初はミニ・アルバムの予定だったが、「〈こういう曲も必要かも〉と思うと、サッと作ったりして」、気がつけばフル・アルバムになっていたという本作。佐藤克彦(ギター)、伊賀航(ベース)、椎野恭一(ドラムス)をはじめ6名のミュージシャンが参加しながら、バンドでレコーディングしたのは“宙ぶらりん”の1曲だけ、というのもおもしろい。

 「“宙ぶらりん”は〈いっせ~の!〉でバンドで演奏したけど、それ以外はそれぞれ良いところで入ってもらいました。例えば“SKULL”は、伊賀くんにベースを1コードだけ入れてもらって、それを聴きながらオレがトランペットを吹いたり、ギターを弾いたり。“ジレンマの花”は全部の楽器を自分で演奏して、それを重ねて1日で作っちゃった」。

 仲間たちから素材を提供してもらいつつも、基本はひとり。自分自身と向き合いながら音を作っていく過程は、〈EGO(自我)〉という名のアルバムに相応しい。粗削りなバンド・サウンドのナンバーやスピリチュアルなインスト曲、あるいはメロウなバラードなど、彼のさまざまな心象風景を映し出すような楽曲は、音楽との自然体な関わり方から生まれた。

 「まず雰囲気だけ決めて、歌も入れずに適当に録音するんです。最初にカッチリやると〈これでいいや〉と思っちゃうから(笑)。で、そのカセットを車の中で聴いてイメージを広げて、スタジオでいろんな楽器を加えて完成させる。今回は特にそうですけど、閃いた時にサッと録っちゃうのがいいですね。サッと録ってサッと遊びに行くぐらいの感じが(笑)」。

 デビュー10年目を迎えて、いまなお純粋さを失わないKeisonの歌。その根っこには、音楽も、遊びも、旅も、すべてを等しく愛する彼の揺るぎない〈EGO〉がある。そんな歌を象徴するのが本作の力強いアートワークだ。実はこれ、本人による自画像らしい。

 「最初は、ちょっと絵でも描いてみようかなっていう軽い気持ちで。その後引っ越すたびに何度も描き直して部屋に貼ってきたんだけど、今回のジャケにいいかなと思って」。

 〈これで完成?〉と尋ねると、「また引っ越したら描き直すかもしれない」と微笑んだ。きっと、そうなるだろう。男の旅はまだまだ続く――。

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掲載: 2009年08月05日 18:00

ソース: 『bounce』 312号(2009/7/25)

文/村尾 泰郎