THE BEACHES
THE BEACHESがとてつもないバケモノのようなバンドになって帰ってきた。JERRY LEE PHANTOMからTHE BEACHESに生まれ変わって早3年。当初からバイリ・ファンキやボルティモア・ブレイクス、クンビアなどのゲットー・ミュージックを採り入れた享楽のグルーヴを放出する、革新的なバンド・サウンドを志向してきた彼らだが、そのストリート感溢れる辺境系のビートとサウンドは3枚目となるニュー・アルバム『ハイヒール Hi Heel』でさらなる進化を遂げている。そこには昨年出演した〈フジロック〉や〈RISING SUN〉、そしてUSツアーも含めたライヴ・サーキットの影響が大きかったとバンドの中心人物=ヒサシ the KID(以下同)は語る。
「俺自身、ファーストとセカンドの出来に関しては本当に満足していたんですよ。だけど(リスナーに)受け入れてもらうには時間のかかる音楽でもあったんですよね。その居場所のなさには正直凹まされたこともあって(苦笑)。だからいままで、焦ってアルバムを出そうなんて考えたことはないんですよ。まずライヴを重ねて、受け入れてもらえる土壌を作るべきだと思っていた。それはもちろん、自分たちはカッコイイことをやっているんだから受け入れてもらえるという自信があったからです。ライヴを繰り返していくことでお客さんも耳を傾けてくれるようになったし、既存の曲もどんどん練られていった。バンド・サウンドに新しいフェイズが見えてきたところで生まれたのがこのアルバムなんです」。
そもそも彼らがゲットー・ミュージックに魅せられた背景には、リアルなストリート・ミュージックを担う、クラッシュ由来のパンク・スピリットがあったから。その精神性はブルックリンをはじめとするレフトフィールドなシーンを注視してきた、彼らの鋭い感性に裏付けられたものだった。
「きっかけは2005年のM.I.A.だったけど、もともとゲットー生まれのレベル・ミュージックが好きだったんです。なぜなら俺はクラッシュから音楽を始めた人間だし、俺自身がマイノリティーなミュージシャンだと思っているから。俺にとって大事なことは本物のストリート・ミュージックをやるということで、弱者の立場から音楽を変えてやりたいという思いは昔から常に持っていたんです。だから〈9.11〉以降はブルックリンをはじめ、ロックが非西欧文化圏の音楽に傾倒していくのは当然だと思っていたんですよ。それを日本でもやらなければいけないなって、当時は思ったんです」。
『ハイヒール Hi Heel』で特徴的なのは、ストリート・ミュージックに日本の歌謡曲風なムードを纏わせているところにある。打ち鳴らされる激しく重いビートと共に溢れ出す、摩訶不思議なメロディーの秘密について興味深い話を語ってくれた。
「日本の歌謡曲は俺にとって大切なルーツなんだけど、昔の歌謡曲って不思議と欧米諸国からの影響とはかけ離れた、第三諸国の音楽から持ってきた音階が多いじゃないですか。きっと民謡とか日本の土着的なビートやメロディーに自然とハマるからだと思うんだけど、その何とも不穏な感じすごく好きなんです。しかもそれはゲットー・ベースに乗っかっているラテン調の音階と近い魅力を俺は感じるんですよ。今回のアルバムは日本語で歌われたラテン歌謡のような不穏さを音階から引き出して、ストリートなヴァイブスを持ったビートと融合させることにもかなり意識的でした」。
the telephonesら若い有能なバンドたちからもリスペクトを集めるTHE BEACHES。本作を聴いていると、そんな彼らの姿勢やスタイルがより多くの人々に受け入れられる日もそう遠くないように感じられる。
「そう言ってもらえると嬉しいですね。俺たち自身もこのアルバムで多くの音楽好きが熱狂してくれるような、リアルなストリート・ミュージックが完成したと心の底から自負してますから!」。
PROFILE/THE BEACHES
ヒサシ the KID(ヴォーカル/ギター)、dij(ドラムス)、r.u.ko(キーボード)、TOMOTOMO club(ベース)から成る4人組。2006年に前身のJERRY LEE PHANTOMから改名して再始動。同年ファースト・アルバム『THE BEACHES』をリリース。2007年にセカンド・アルバム『HANA HOU』を発表し、初の全国ツアーを行う。2008年のシングル“POLICE & GIRLS & BOYS”をリリース後はUSツアーや〈フジロック〉〈RISING SUN〉への出演で注目を集める。これまでに曽我部恵一BANDやneco眠る、the ARROWSなどのゲストを迎えている自主企画〈DISCO SANDINISTA!〉も評判となるなか、8月5日にニュー・アルバム『ハイヒール Hi Heel』(WESS)をリリースしたばかり。