インタビュー

THE TEMPER TRAP


  「君だけじゃなくて、みんなが僕らの音を〈スタジアム級〉って呼ぶから不思議なんだよね」とテンパー・トラップのフロントマン、ダギー・マンダギ(以下同)は怪訝そうに訊き返す。要は音のスケールがデカいってことなのだと説明しても、まだ納得いかないらしい。

 「それなら嬉しいけど、スケールのデカいインディー・ロックってヘンなのかな?」。

 ヘンだなんてとんでもない。世の中には、ルーツの部分は圧倒的にインディーでありながらスタジアム級の音を鳴らすロック・バンドがいる。U2然り、レディオヘッド然り、アーケイド・ファイア然り。このオーストラリアはメルボルン出身の4人組は、まさにそういう極めてレアな種に属していると断言したい。だからこそ一介のインディー・バンドだというのに、彼らの周囲はやたらと騒がしかった。2005年に結成され、昨年秋になって初めて国外でライヴを披露すると、評判を一気に高めて諸メディアが〈2009年の要注目新人の一組〉に指名。しかも、アークティック・モンキーズやカサビアンの作品で知られる売れっ子=ジム・アビスが偶然耳にした4人の曲に惚れ込み、アルバムのプロデュースを買って出たという話も関係者を騒然とさせたものだ。

 「ジムがアプローチしてきた時点で僕らの存在を知っていたのは、友達と家族だけだったと言って過言じゃない。だからビックリしたし、〈マジっすか? もちろんお願いします!〉って即答さ(笑)。ホント、まだ何もしていない時から業界を上げて注目してくれて、正しい道を進んでいるんだと実感できたよ」。

 こうしてめでたくジムと完成させたファースト・アルバム『Conditions』は、前評判に応えて余りある無限大の可能性を包含した傑作だ。スタイルや流行に縛られず、歌い手/プレイヤーとしての4人の確かな実力とパーソナリティーに物を言わせて、オーガニックとエレクトロニックを自由に往来しながらしなやかにうねり、聴き手の心を激しく震わせる。

 「こういう音になった経緯は、〈4人がしっくりくる音だったから〉と言うよりほかないんだ」とダギーは話す。「みんなでプレイしていると〈これだ!〉と全員が一致する瞬間がある。それが唯一の指針なのさ。結成当初から音楽的な基準は一切なくて4人の嗜好もバラバラだし、僕ら自身が楽しめればよかった。それに過去4年間、いろいろな変化を経ていまの音に到達したから、今後も変わり続けると思うよ」。

 そんな掴みどころのない多彩なサウンドを束ねているのは、アル・グリーンやカーティス・メイフィールドら古典的ソウル・シンガーの影響下にあるダギーのファルセット・ヴォイスであり、歌詞を貫いているテーマ。ロマンティストを自認する彼が綴る、シニシズムに曇ることなく真っ直ぐこちらを射抜く言葉も、間違いなくこのバンドのウリだ。

 「アルバム収録曲はどれもヒューマニティーをテーマに扱っている。正確には、ヒューマニティーの脆さや危うさだね。〈なぜ僕らはいつも過ちを犯し、躓いてしまうのか?〉と問いかけているのさ。僕には興味の尽きない題材で、知らないうちにそういう曲ばかり書いていたんだ」。

 これまたサウンドにぴったり合致するスケールのデカいテーマなのだが、バンドの行動半径もどんどん広がっており、5月にはロンドンに拠点を移して精力的にライヴ活動中。インドネシア出身のダギーにとっては、祖国をツアーすることも夢のひとつだという。

 「ステージこそ僕らがいちばん輝ける場所だと思っているから、ハイプにつられた興味本位のリスナーじゃなく、ライヴを通じて真のファンを一人でも増やしたい。何しろこの夏は32のフェスでプレイしたんだ! そんなことメルボルンにいたら絶対できないよね。慣れない外国生活でバンドの結束も強まったし、余計にやる気が湧いてくるよ!」。

PROFILE/テンパー・トラップ

ダギー・マンダギ(ヴォーカル/ギター)、ジョニー・エイハーン(ベース)、ロレンゾ・シリット(キーボード/ギター)、トニー・ダンダス(ドラムス)から成る4人組。アートを学ぶためインドネシアからオーストラリアに渡ったダギーが、バイト先で意気投合したトビーと共に2005年に結成。2007年にアッシュやミューズを輩出したインフェクシャスの元オーナーの目に留まり、バンドのためにレーベルを再開することが報じられる。2008年にファースト・シングル“Sweet Disposition”を発表。2009年7月にEP『Science Of Fear』で日本デビューを飾り、その直後に〈サマソニ〉にも出演。このたびファースト・アルバム『Conditions』(Infectious/HOSTESS)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年09月30日 18:00

ソース: 『bounce』 314号(2009/9/25)

文/新谷 洋子