OGRE YOU ASSHOLE
OGRE YOU ASSHOLEの躍進は、静かに、しかし確実に続いている。2001年にモデスト・マウスのエリック・ジュディによって名付けられたバンド名を引っ提げて、翌年には長野から名古屋へと拠点を移した彼ら。プロミス・リングやビルト・トゥ・スピルといった90年代USインディー勢からの影響をチラつかせる豊潤なサウンドとメロディーで、インディー・シーンを席巻した。そして今年、ついにシングル“ピンホール”でメジャー・デビュー。そんなバンドの好調を証明するように、移籍後初となる3枚目のフル・アルバム『フォグランプ』が発表される。
「メジャーへ移籍したおかげで、より音楽に集中できるようになりました。すごくシンプルな生活になりましたね。アルバムの方向性についても、いままではその時期に出来た曲をまとめていくような感じでしたけど、今回はメンバーと時間をかけて話し合って、〈フォグランプ(=霧灯)〉をキーワードにアルバムを作ろうと決めたんです。霧が漂っているような、ほわ~んとした雰囲気のアルバムにしたいなって」(出戸学:以下同)。
研ぎ澄まされた演奏の向こうから立ち昇る濛々とした霧のようなムードと、そのなかで仄かに灯るような出戸の歌声、そして柔らかく繊細なギター・アンサンブル――雑味を徹底して削ぎ落としたバンド・サウンドは時に鋭く変容し、持ち前のメロディアスなポップセンスを最大限に引き出しながらスリリングに昂揚感を増幅していく。今回の作品はとてもさっぱりとした印象ではあるが、次々と移り変わるひとつひとつのサウンドを聴き込むごとに、いくつもの驚きと発見がある。実に奥深く、味わい深いアルバムなのだ。
「何となく、地元の長野っぽさを感じるアルバムだと僕は思っていて。霧で煙るなかを車で走っている感じとか、その時に感じる不安とかを思い出すんです。別に長野をイメージして作ったわけではないし、偶然、ただ何となくそう感じるというだけなので意味とかは特にないんですけど。霧が出る場所なら、別にどこでもいいかな(笑)」。
いままで以上に演奏の幅が広がり、格段にスケールアップした楽曲展開も魅力だ。これは昨年発表のミニ・アルバム『しらないあいずしらせる子』にも関わったプロデューサーの石原洋とエンジニアの中村宗一郎という、ゆらゆら帝国なども手掛ける2人の貢献がやはり大きいという。
「石原さんと中村さんとは、前よりもしっかりと楽曲構成について話し合えるようになりました。今回でやっと、いっしょにひとつのものを作ったという充実感が得られたような気がしています。あと、ドラムの勝浦(隆嗣)さんがアルバムの制作期間にブラジリアン・ポップスとかボサノヴァをよく聴いていて、その影響がいままでの僕らにはないリズムの多彩さに繋がっているような気もしますね。ギターのアレンジも、特に馬渕(啓)がレコーディングのなかで試行錯誤していました。彼の苦労は今回、アルバムの印象を何度も変えるくらいに重要な効果を生んでいると思います。僕の役割は歌詞や歌でより〈フォグランプ〉のイメージに近付けることでした。最近、前よりも自分の歌が好きになってきた気がしています(笑)」。
自分たちの音楽と真っ直ぐに向き合い、磨き、高め合い、研鑽を繰り返しながら着実に成長し続ける。そんな彼らのいまを象徴するのがラスト・ナンバーの“ワイパー”だ。彼らのゆったりとしたキャラクターとは裏腹な、実験的かつストイックなトリップ・ミュージックに度肝を抜かれる。
「やっぱり、変なバンドですよね(笑)。こういうことは僕らにしかできないなって、今回のアルバムを通じて改めて思いました。そういった部分は活かしつつ、シンプルさを突き詰めることで激しさを増すような、そんなバンドをめざしたいですね」。
PROFILE/OGRE YOU ASSHOLE
出戸学(ギター/ヴォーカル)、馬渕啓(ギター)、平出規人(ベース)、勝浦隆嗣(ドラムス)から成る4人組。2001年、長野で出戸と平出、現在療養中の西新太(ドラムス)が現バンド名での活動を開始。2003年に馬渕が加入。2005年に西のサポートとして勝浦が加わる。同年に初作『OGRE YOU ASSHOLE』を、2006年にミニ・アルバム『平均は左右逆の期待』を発表。2007年の〈ROCK IN JAPAN〉への出演で注目を集め、同年リリースの2作目『アルファベータ vs.ラムダ』、2008年のミニ・アルバム『しらないあいずしらせる子』で知名度を上げる。今年3月にシングル“ピンホール”でメジャー・デビュー。このたびニュー・アルバム『フォグランプ』(バップ)をリリースしたばかり。