NEWTON FAULKNER
「去年の暮れに兄と妹といっしょにフランスへ行ったんだ。2人はスノボを楽しんでいたけど、僕はレコーディングが控えていたので怪我でもしたらまずいと思ってやらなかった。だけどね、歩いていたら凍った道で滑って転んで骨折っちゃってさ。そのまま入院。参ったよ!」。
そう言って右手首を見せるニュートン・フォークナー君。わっ、そこにはまだ生々しい縫い跡が!
「このまま治らずにギターが弾けなくなったらどうしようって考えると、不安で仕方なかった。でも、治療に専念したおかげで完治したし、少しの間休めたのはかえって良かったかな。デビュー前から3年間ずっとツアーに出っぱなしだった僕には、休みが必要だったんだ。その間に良い曲も書けたし、新作のサウンドについてじっくり考える余裕もできたしね」。
タッピング奏法を駆使してみずからの曲に膨らみと深みを持たせ、マジカルな聴き心地をリスナーに与えるギタリストにしてシンガー・ソングライター。あのジミー・ペイジもファンだというほどの超絶テクを持つ男だが、そんな彼にとって右腕は生命線。後遺症が残らなくて本当に良かった。
「うん。それにしても13歳の頃からギターを弾かない日なんて1日もなかったから、数週間ギターに触れなかったのはヘンな感覚だったよ。久しぶりに弾けた時はほっとした。僕にとってギターを弾くのはいちばんリラックスできる行為なんだ。好きな映画を家で観ながら、そのスコアに重ねて自分なりに即興でギターを合わせていくのはもっとも幸せを感じる時間だね」。
怪我のせいでスケジュールはずれ込んだものの、休んでいる間にじっくり曲を練り上げ、そうして完成させたのがセカンド・アルバム『Rebuilt By Humans』だ。「まさに僕の手首も人間の手によって再生したわけで……」と笑うが、そのタイトルからもわかる通り、UKでロング・ヒットとなったデビュー作『Hand Built By Robots』の続編的な作品だ。
「いろいろ新しいことをやりたくなる性格だけど、現実的に考えて、最初の2枚は同じ路線で作ったほうがいいだろうと。前作を気に入ってくれた人たちを惑わせたくなかったんだよ」。
とはいえ、あきらかに進化は見せている。メロディーはよりドラマ性を帯び、サウンドは輪郭がくっきりした。
「前のアルバムでは、何にしてもやり方が控え目だった。例えばエレクトリックなサウンドを用いる時には、トラックの下のほうに何気なく潜ませるやり方をしていた。でも今回は、使うんだったら堂々と鳴らそうと思って。アコースティックならアコースティック、エレクトリックならエリクトリック、ラウドにしたいところは思いっきりラウド、静かにしたいところはより静かにってね」。
そのようなメリハリがもっとも際立った一曲が“Won't Let Go”だろう。ストリングスとプログラミングされた高速ビートのユニークな合わさりが気持ちを昂揚させるこの曲は、ニュートンと小山田圭吾(コーネリアス)の共作によるものだ。
「前々から僕はコーネリアスの大ファンでね。彼も僕のプレイ・スタイルに興味を持ってくれて、前回日本に行った時に彼のスタジオで録ったんだ。スペースの活かし方がとりわけ天才的だと思ったよ」。
また、全体を通してニュートンの歌唱表現がグッとエモーショナルになっていることも特筆すべきところ。ラストを飾る“I'm Not Giving Up Yet”の祈るようなヴォーカルなどは、レイ・ラモンターニュ級の深みを感じさせる。
「それは嬉しいな。でも最近なんだよ、自分のことをシンガーだと認められるようになったのは。前作の時はまだ〈ギタリストだけど歌もやってます〉ってなつもりだったからね。だけど、今作で歌にも自信がついた。いまの僕は、結構良いシンガーだと思うよ(笑)」。
PROFILE/ニュートン・フォークナー
85年生まれ、UKはサリー出身のシンガー・ソングライター。13歳の頃にギターを始め、16歳で音楽専門学校に入学。ヴァン・ヘイレン“Jump”やシール“Killer”などのギター・アレンジを担当したエリック・ロシェのもと、腕を磨いていく。2006年4月に自主でファーストEP『Full Fat』をリリース。直後に出演した〈SXSW〉でのステージが評判を呼び、ジェイムズ・モリソンやジョン・バトラーの前座に抜擢される。2007年3月にシングル“I Need Something”でメジャー・デビュー。同年7月にはファースト・アルバム『Hand Built By Robots』を発表し、UKチャート1位を獲得。このたびセカンド・アルバム『Rebuilt By Humans』(Ugly Truth/Aware/BMG JAPAN)をリリースしたばかり。