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インタビュー

RAUL MIDON

さまざまな音楽を融合して自身の肉体とギターから紡ぎ出してきた才人が、エマーシーに移籍して新作をリリース!! 音もテーマもより多様になったその内容とは?


  〈ひとりオーケストラ〉という異名を持つ全盲のシンガー/ギタリスト、ラウル・ミドン。アコースティック・ギターと自分の身ひとつあれば、ありとあらゆる音を再現してしまう彼の超絶テクニックは、世界中の音楽ファンを驚かせると同時に絶大な支持を集めている。つい先日来日した際も、彼は抜きん出たパフォーマンスで観客を圧倒した。時にはギターを荒々しくひっぱたいてパーカッション代わりにし、間奏では見事なマウス・トランペット(その名の通り、口だけでトランペットの音を再現すること。いまやミドンの代名詞でもある)を披露。その姿からは、楽器にも自分自身の身体にも限界を課すことなく、常に新たな可能性を探求している印象を受ける。

 「それこそが僕の音楽へのアプローチだよね。ミュージシャンとしてジャズだとかフォークだとか、固定されたジャンルに分類されることほどつまらないことはないんだ。デビュー当時はプロデューサーでさえ〈マウス・トランペットを入れた曲なんて、どこのラジオ局でもオンエアしてくれないよ!〉って言っていたぐらいだけど、僕の音楽を分類するなんて誰にもできないし、他のミュージシャンがすでにやったことをなぞるぐらいだったら音楽家でいる意味はないと思うからね」。

 そんな彼の音楽哲学は、ジャズ界の伝説的ベーシストでもある名プロデューサーのラリー・クラインを迎えて制作された、ニュー・アルバムの『Synthesis』というタイトルにも顕著に反映されている。

 「もともと〈Synthesis〉という言葉には、〈総合〉や〈統合〉という意味があるんだけど、ソウル/ジャズ/ポップスなどのさまざまな要素をミックスしているっていう理由もあるし、ラヴソングが多かったこれまでのアルバムとは違って、幅広い感情を歌っていることもタイトルで伝えたかったんだ」。

 軽やかなアコースティック・サウンドに、〈新しい時代の担い手は自分たちだ〉という、いたって前向きなメッセージを込めたリード曲“Next Generation”は、そんな彼の新境地がもっともわかりやすく伝わってくるナンバー。穏やかで温かな歌声のなかに、きっぱりとした決意表明がある。

 「オバマ大統領にインスピレーションを受けて書いた曲だよ。これまでは〈フセイン〉というミドルネームを持った人が大統領に就任するなんて考えられなかったことだし、彼の登場ですべてが正しくリセットされるような大きな期待を持つことができたんだ。いまのアメリカは経済危機や健康保険問題など、課題が山積み。そんな現状を打破して新たな未来を作っていくのは、やっぱり自分自身や固定観念に囚われない人々なんだよね。音楽には言語や肌の色の違いを超えて、一瞬にして人間をひとつにする力があるけど、そんなふうに世界も少しずつ変化していくことを期待して書いた曲なんだ」。

▼関連盤を紹介。

▼ラウル・ミドンの作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年10月14日 18:00

ソース: 『bounce』 315号(2009/10/25)

文/結城 雅美