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インタビュー

People In The Box

 残響が擁する歌モノ部隊のなかでも、そのファンタスティックな音世界によって独特の存在感を放っているPeople In The Box。彼らが完成させた新作『Ghost Apple』は、7編の物語が連なってひとつの〈世界〉を創出するコンセプチュアルなミニ・アルバムだ。変拍子と転調を多用しながらもメロディアスに響く、新しいスタイルのポップソングが揃った本作について、メンバー3人に話を訊いた。

Bメロには本気で行く

  表面的には〈変拍子と転調の多用〉ということになるのだろうが、聴覚上、複雑に感じるところはまったくなく、新しいスタイルを持ったポップソングとして刺激的に響く――3枚目のミニ・アルバム『Ghost Apple』によって、People In The Boxはその音楽的資質をより強く、明確に示すことに成功している。抽象的なイメージを連ねていきながら、神話的なスケールと日常的な生々しさを同時に描き出すリリックも極めて個性的。聴けば聴くほど深みを増していくこの作品は、彼らの存在をさらに広く知らしめることだろう。

――〈Aメロ、Bメロ、サビ〉というフォーマットをほとんど無視しているように聴こえました。それでもなお、ポップソングとして成立しているところがPeople In The Boxのおもしろさだと思うんですが。

波多野裕文(ヴォーカル/ギター)「僕らもポップソングでありたい、とは思ってるんですけどね(笑)。ただ、全員がパッパラパーなので」

――パッパラパーって(笑)。どういう意味ですか?

波多野「うーん(笑)、狙ってできるものじゃない、っていうことですよね。より気持ちいいところに向かっていくうちに、それぞれの曲のフォルムに落ち着いていくっていう感じなので。根本的なところをどんどん探っていくというか」

山口大吾(ドラムス)「〈A、B、サビ〉っていうつもりで作ってるんですけど、例えばスタジオで〈じゃあ、2(番の)サビからやってみようか〉って言うじゃないですか。そうすると、全員が違うところから始めたりするんですよね」

福井健太(ベース)「そうだね(笑)」

山口「そこを共有できてないっていうのが、いいところでもあり、良くないところでもあり」

――そういう状態で、よく曲が出来ますねえ。

山口「実際、ちゃんと出来ていますから(笑)」

波多野「そこらへんは自分たちでもよくわからないんですけどね。言葉による会話ではないところで成り立っているので」

山口「歌メロとギターのメロですよね、軸になっているのは。あとはテンション感だったり」


――テンション感っていうのは、演奏する時の感情の持ち方ってことですか?

山口「それが合っていれば良い、っていうことでもないんですけどね。自分だけが熱くやっていて、ほかの2人が冷めてる感じの時もあるし――そういう話はするんですよ。〈いまの部分、どれくらいのテンションでやってる?〉って。そこで〈サビの2割減くらいかな〉って返事があったり」

波多野「そこで初めて会話が始まるっていう(笑)」

――では、変拍子を使ったアレンジも……。

山口「自然に生まれるものですね。〈これ、普通だな〉と思ったら、〈じゃあ、1拍早く次の小節に行こうか〉とか」

波多野「このバンドは感覚的な部分が大きいですからね」

福井「うん。自分たちとしては、わりとシンプルにやってるつもりだし」

――まあ、バンドらしい方法ですけどね。メンバーそれぞれが、演奏していて気持ちいいところを探っていくっていう。

山口「そうなんですよ! やってることは普通なんです、ホントに」

波多野「うん、形としてはすごくオーソドックスだと思いますね」

――この3人でバンドをスタートさせた時からそんな感じだったんですか?

山口「近い感じだとは思います。ただ、最初は難しかったですけどね。僕の場合、前にやってたバンドは〈次はこういうふうになるだろう〉っていうのがイメージしやすかったんです。でも、このバンドではそれが裏切られることが多い。最近ですよね、それが自分なりに消化できるようになったのは。いまは楽しんでやれるところまで来てるし、あとはこれを追求するのみ、っていう」

福井「そういうやり方が楽しいというか」

山口「限定はしたくないんですけどね。〈これ〉っていう形を決めてるわけではないので」

――いまの話でいくと、曲によってフォーマットが違う、その曲に合ったフォーマットをいちいち発明していくっていう感じですよね。

波多野「そのぶん、作業には時間がかかってしまうんですけどね。最初に設計図があって、それを再現していくほうが時間はかからないのかもしれない。でも、自分たちがやりたいことを貫くほうが、最終的には正解に近付くんじゃないかなって」

山口「うん。フォーマットっていうのはないですね」

波多野「確かに、〈型から作っていきたい〉っていうのは強いかもしれないですね、確かに。〈Aメロがこんな感じだから、Bメロはこうだよね〉ってサラッと行くんじゃなくて、もっと本気でBメロに行くっていうか――おもしろいな、〈本気でBメロに行く〉って(笑)」

福井「そうだね(笑)」

波多野「〈僕たちは本気でBメロに行ってます〉って、見出しにしてください」

――(笑)既存の形ではなく、3人で突き詰めた結果〈次の展開はこれしかない〉って決めてるわけですからね。

波多野「そこまできっちり突き詰めないとダメだと思うんですよ。エゴで作ってるぶん、それをちゃんと煮詰めて、きちんとしたフォルムを与えないといけないというか」

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掲載: 2009年10月14日 18:00

更新: 2009年10月14日 18:35

文/森 朋之